世界地図を見て、「グリーンランドってこんなに大きいのか」と思ったことはないだろうか。
見慣れた世界地図では、グリーンランドがアフリカ大陸に迫るほど巨大に見えることがある。
ところが実際の面積は、
グリーンランド:約216万km²
アフリカ:約3,007万km²
その差は約14倍。
実際には、アフリカの方が圧倒的に大きい。
では、なぜ世界地図ではこれほど違って見えるのか。
原因は地図が間違っているからではない。
球体の地球を平面に描く「地図投影法」の違いにある。
近年、この面積の違いをより正確に表現する世界地図として注目されているのが「イコールアース図法(Equal Earth Projection)」だ。
今回は、私たちがよく目にするメルカトル図法との違いから、世界地図がどのような技術で作られているのかを見ていこう。
地球を平面にすると、必ずどこかが歪む
そもそも、ほぼ球体である地球の表面を、そのまま長方形の紙へ広げることはできない。
みかんの皮を一枚につないだまま、きれいな長方形へ伸ばそうとする場面を想像すると分かりやすい。
どこかを切るか、伸ばすか、縮めなければ平らにはならない。
世界地図も同じだ。
地球を平面へ変換するときには、
- 面積
- 角度
- 形
- 距離
- 方角
などのどこかに必ず歪みが生まれる。
つまり、
「すべてが完全に正しい世界地図」は作れない。
そこで地図は、「何を優先して正しく表現するか」によってさまざまな図法が考案されてきた。
メルカトル図法は何が優れている?
代表的なのが「メルカトル図法」だ。
フランドルの地理学者・地図製作者ゲラルドゥス・メルカトルが1569年に発表した。
メルカトル図法は「正角図法」に分類される。
これは簡単に言えば、ある地点の周辺を小さな範囲で見たときに、角度や形を保ちやすい図法だ。
緯線と経線は直角に交わり、一定の方角を保って進む「等角航路」を地図上で直線として描ける。
例えば船が、
「北から60度の方向を保って進む」
という航海をするとき、メルカトル図法ならその航路を直線として地図へ描ける。
そのため航海用の海図との相性が非常によく、現在でも海図や航海システムで利用されている。
つまり、メルカトル図法は単に昔から使われている地図ではなく、明確な目的を持った優れた技術なのである。
ただし「面積」は大きく歪む
一方、メルカトル図法には大きな特徴がある。
赤道から北や南へ離れるほど、地図上の縮尺が大きくなる。
つまり高緯度の地域ほど実際より拡大して表示される。
その代表例がグリーンランドだ。
メルカトル図法の世界地図では、グリーンランドとアフリカがそれほど違わない大きさに見える場合がある。
しかし実際には、
アフリカはグリーンランドの約14倍。
かなり大きな差がある。
同じ理由で、北方に位置するロシア、カナダ、北欧なども大きく見えやすい。
逆に赤道付近に広がるアフリカや東南アジアなどは、相対的に小さく感じやすくなる。
ここで重要なのは、
メルカトル図法が間違っているわけではない
ということだ。
そもそもメルカトル図法は、世界各国の面積を比較することを目的として作られた図法ではない。
面積を犠牲にする代わりに、角度や航海上の扱いやすさを得ているのである。
「形が正しい」という理解にも少し注意
メルカトル図法について、
「面積は違うけれど、形は正しい」
と説明されることがある。
大まかな理解としては分かりやすいが、厳密には少し注意が必要だ。
正角図法が保つのは、ある地点の周囲を十分小さく見たときの角度や形である。
世界地図上でグリーンランドやロシアのような巨大な地域全体を見た場合、その輪郭まで球面上と完全に同じ形になるわけではない。
したがって、
メルカトル図法=局所的な角度や形を重視
と考える方が正確だ。
面積を正しく見せる「イコールアース図法」
そこで登場するのが、
イコールアース図法(Equal Earth Projection)
だ。
2018年、Bojan Šavrič、Tom Patterson、Bernhard Jennyの3人によって発表された比較的新しい世界地図投影法である。
イコールアース図法は「正積図法」に分類される。
最大の特徴は、
地球上の面積の比率を、地図上でも正しく保つこと。
例えば地球上でAという地域がBの2倍の面積なら、地図上でもAはBの2倍の面積として描かれる。
そのため、メルカトル図法で大きく見えていたグリーンランドは小さくなり、アフリカや南米などの実際の存在感が分かりやすくなる。
イコールアースでも「全部が正しい」わけではない
では世界地図は全部イコールアースにすればよいのか。
そう単純でもない。
イコールアース図法は面積を正しくする代わりに、角度や形、距離などには歪みが生じる。
地図の端へ行くほど、大陸の輪郭が少し伸びたり傾いたように感じる場所もある。
つまり、
メルカトル図法は角度を優先。
イコールアース図法は面積を優先。
どちらか一方だけが「正しい世界地図」なのではない。
目的が違うのだ。
メルカトル図法とイコールアース図法を比較
| 項目 | メルカトル図法 | イコールアース図法 |
|---|---|---|
| 分類 | 正角図法 | 正積図法 |
| 面積 | 高緯度ほど大きく歪む | 面積比を正しく保つ |
| 角度 | 局所的に正しい | 正角ではない |
| 形 | 小さな範囲では保たれやすい | 多少歪む |
| 等角航路 | 直線で描ける | 直線にならない |
| 航海用 | 非常に適している | 基本的に不向き |
| 世界の面積比較 | 不向き | 適している |
こうして比較すると、単純な優劣ではないことが分かる。
Googleマップなどがメルカトル系なのはなぜ?
現在のオンライン地図でも、メルカトルをベースにした「Webメルカトル」が広く利用されている。
Google Mapsの地図システムでもメルカトル投影が使われている。
世界全体を表示すると高緯度地域の面積は大きく歪むが、オンライン地図では通常、地球全体を見ながら国土面積を比較するより、
- 道路を見る
- 建物を探す
- 地図を拡大・縮小する
- 現在地周辺を確認する
といった用途が中心になる。
さらにWebメルカトルは、地球全体を正方形の地図タイルへ分割し、ズームレベルに応じて効率よく表示する仕組みとも相性がよい。
つまりWeb地図でも、
「面積を正しく見せること」より「地図サービスとして扱いやすいこと」
が優先されている。
世界地図を変えるだけで、世界の印象も変わる
ここが地図投影法の面白いところだ。
メルカトル図法を見慣れている状態からイコールアース図法へ切り替えると、世界の印象がかなり変わる。
「アフリカってこんなに大きかったのか」
「グリーンランドって思っていたより小さい」
「南米もかなり大きい」
と感じる人もいるだろう。
地球そのものは何も変わっていない。
表示方法を変えただけで、人間が受ける印象が変わる。
これは単なる地理の雑学ではない。
例えば、
- 森林面積
- 農地
- 気候変動
- 人口分布
- 資源
- 災害範囲
- 環境問題
などを世界地図上で表現する場合、面積の歪んだ地図を使えば、データを見る人が受ける印象にも影響する可能性がある。
面積そのものに意味があるデータを世界規模で示すなら、正積図法を選ぶ意味は大きい。
地図は「地球をそのまま小さくしたもの」ではない
普段、私たちは地図を当たり前のように利用している。
しかし世界地図は、地球をそのまま縮小して紙へ貼り付けたものではない。
球体を平面へ変換するため、
何を正しくし、何を歪ませるのか。
その選択の上に成り立っている。
メルカトル図法にはメルカトル図法の役割があり、イコールアース図法にはイコールアース図法の役割がある。
世界地図を見たとき、
「この地図は、何を正しく見せるために作られているのだろう?」
と少し考えてみる。
それだけでも、いつもの世界地図が今までとは違って見えてくるかもしれない。
まとめ
メルカトル図法は、局所的な角度や形を保ち、等角航路を直線として描けることから、航海などで大きな利点を持つ。
しかし高緯度になるほど面積が拡大されるため、世界各国の大きさを比較する用途には向いていない。
一方、2018年に発表されたイコールアース図法は、国や大陸の面積比を正しく表現できる正積図法だ。
ただし、こちらも形・角度・距離のすべてを正確に表せるわけではない。
結局のところ、
「どの地図が正しいか」ではなく、「何を見るための地図なのか」。
世界地図には、それぞれの目的に合わせた「正しさ」があるのである。
参考・出典
Equal Earth公式「Equal Earth Projection」
https://equal-earth.com/equal-earth-projection.html
Šavrič, Patterson, Jenny「The Equal Earth map projection」
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13658816.2018.1504949
NOAA Office of Coast Survey「Nautical Cartography」
https://www.nauticalcharts.noaa.gov/learn/nautical-cartography.html
Google for Developers「Map Types / Projections」
https://developers.google.com/maps/documentation/javascript/maptypes
CIA World Factbook「Greenland」
https://www.cia.gov/the-world-factbook/countries/greenland/


