天井クレーンの駆動方式を調べていると、「巻線形モーター」「三相誘導電動機」「二次抵抗制御」「サイリスタ制御」「インバータ制御」など、構造と制御方式の異なる言葉が並んで出てきます。
さらに、省エネルギーを重視する設備では、回生コンバータやマトリクスコンバータが候補に挙がることもあります。
最初に整理しておきたいのは、巻線形モーターと三相誘導電動機は、別の種類を表す言葉ではないという点です。
三相誘導電動機の回転子構造には、主に次の2種類があります。
- かご形三相誘導電動機
- 巻線形三相誘導電動機
二次抵抗、サイリスタ、インバータ、マトリクスコンバータは、モーターをどのように始動・加速・減速・速度制御するかという「制御方式」の違いです。
この記事では、クレーンに使われるモーターと制御方式について、構造、始動トルク、速度制御、停止精度、省エネ、保守、更新費用の違いを整理します。
- 先に結論|新しい方式がすべてのクレーンに最適とは限らない
- モーターと制御方式を分けて考える
- 主な方式の比較表
- かご形三相誘導電動機とは
- 巻線形三相誘導電動機とは
- 二次抵抗制御の仕組み
- 二次抵抗制御を残す判断も間違いではない
- サイリスタ制御の仕組み
- インバータ制御の仕組み
- クレーン用インバータの具体例
- 既設の巻線形モーターをインバータ化できるか
- インバータの回生処理は3種類ある
- マトリクスコンバータとは
- クレーンの省エネはポンプやファンと考え方が違う
- 制御方式ごとの費用比較
- どの方式を選ぶべきか
- インバータ化する前に確認したい注意点
- 「省エネになるからインバータ化」だけで判断しない
- まとめ|設備の使い方に合った方式を選ぶ
- 関連記事
- 参考情報
先に結論|新しい方式がすべてのクレーンに最適とは限らない
現在、新設クレーンでは、かご形三相誘導電動機とインバータを組み合わせる方式が主流になっています。
低速から高いトルクを出しやすく、加減速が滑らかで、カーボンブラシ、スリップリング、二次抵抗器などの保守部品を減らせるためです。
ただし、既設の二次抵抗制御クレーンを、すべてインバータ制御へ更新すべきとは限りません。
次のようなクレーンでは、既設方式を維持する方が合理的な場合があります。
- 使用頻度が低い
- 年間の運転時間が短い
- 高精度な位置決めを必要としない
- モーター、抵抗器、制御盤の状態が良好
- 交換用接触器やブラシなどを確保できる
- インバータ化による省エネ額が小さい
- 制御盤やモーターを更新すると大規模な改造になる
反対に、高頻度運転、低速位置決め、荷振れ低減、保守工数削減、回生電力の利用を重視する場合は、インバータ制御やマトリクスコンバータが有力な選択肢になります。
重要なのは「古いか新しいか」ではなく、使用頻度、荷重、速度、停止精度、保守体制、部品供給、更新費用を含めて判断することです。
モーターと制御方式を分けて考える
クレーンの駆動装置を理解するには、次の2段階に分けると分かりやすくなります。
モーターの構造
- かご形三相誘導電動機
- 巻線形三相誘導電動機
モーターの制御方式
- 直入れ・電磁接触器制御
- 極数切替制御
- 二次抵抗制御
- サイリスタ一次電圧制御
- インバータ制御
- 回生コンバータ付きインバータ制御
- マトリクスコンバータ制御
「巻線形モーターだから二次抵抗制御」とは限りません。
既設の巻線形モーターを使用しながら、サイリスタ一次電圧制御を行う設備や、条件を確認したうえでインバータを適用する更新方法もあります。
ただし、新設や大規模更新では、かご形モーターとインバータを組み合わせる構成が一般的です。
主な方式の比較表
| 項目 | 二次抵抗制御 | サイリスタ制御 | インバータ制御 | マトリクスコンバータ |
|---|---|---|---|---|
| 主なモーター | 巻線形 | 巻線形 | かご形が基本 | かご形が基本 |
| 制御対象 | 回転子側抵抗 | 一次側電圧 | 周波数・電圧 | 周波数・電圧 |
| 速度変化 | 段階的 | 無段階に近い | 無段階 | 無段階 |
| 低速トルク | 比較的強い | 比較的強い | 強い | 強い |
| 速度安定性 | 負荷の影響を受けやすい | 比較的良い | 良い | 良い |
| 加減速 | ノッチごとに変化 | 滑らか | 滑らか | 滑らか |
| 回生電力 | 基本的に熱で消費 | 基本的に熱で消費 | 構成による | 電源へ回生可能 |
| 二次抵抗器 | 必要 | 使用する構成が多い | 不要 | 不要 |
| ブラシ・スリップリング | 必要 | 必要 | かご形なら不要 | かご形なら不要 |
| 主な保守対象 | ブラシ、接点、抵抗器 | ブラシ、抵抗器、サイリスタ | 冷却ファン、コンデンサ、電子部品 | 冷却ファン、電子部品 |
| 初期費用 | 既設流用なら低い | 中~高 | 高 | 高 |
| 省エネ性 | 低い | 二次抵抗より改善する場合あり | 構成次第 | 回生頻度が高い設備で有利 |
| 向く設備 | 低頻度・既設延命 | 既設巻線形を生かした速度制御 | 新設、高頻度、高精度 | 高頻度回生、高調波・盤スペース重視 |
表は一般的な傾向です。
実際の性能は、モーター容量、ED定格、制御装置、速度検出器、ブレーキ方式、荷重、運転頻度によって異なります。
かご形三相誘導電動機とは
かご形三相誘導電動機は、回転子の導体がかごのような構造になっているモーターです。
構造が比較的単純で、回転子側へ外部配線を接続する必要がありません。
メリット
- 構造が単純
- 丈夫で故障箇所が少ない
- カーボンブラシが不要
- スリップリングが不要
- 保守作業を減らしやすい
- インバータとの組み合わせに適している
デメリット
- 商用電源へ直接接続すると始動電流が大きくなりやすい
- 直入れだけでは細かな速度調整ができない
- 低速で連続運転する場合は冷却能力を確認する必要がある
- インバータ運転では絶縁、軸電流、サージ、騒音などの確認が必要
現在のクレーンでは、かご形モーターとインバータを組み合わせることで、始動電流、加速、低速トルク、速度、停止を制御する構成が多くなっています。
巻線形三相誘導電動機とは
巻線形三相誘導電動機は、固定子だけでなく回転子にも三相巻線を持つモーターです。
回転子巻線は、スリップリングとカーボンブラシを通して外部の二次抵抗器へ接続されます。
二次側へ抵抗を挿入することで、始動電流を抑えながら大きな始動トルクを得られます。
重量物を始動させるクレーンでは、長年にわたって広く使用されてきました。
メリット
- 大きな始動トルクを得やすい
- 始動電流を抑えやすい
- 二次抵抗を切り替えて段階的に速度を変えられる
- 瞬間的な過負荷に対応しやすい
- 既設設備として実績が多い
- 構造と回路を理解している保全担当者には扱いやすい
デメリット
- カーボンブラシが摩耗する
- スリップリングの汚れや荒れを点検する必要がある
- ブラシ粉が発生する
- 二次抵抗器が発熱する
- 抵抗短絡用電磁接触器の接点が摩耗する
- ノッチ間で加速ショックが出やすい
- 負荷によって低速時の速度が変わりやすい
巻線形モーターそのものが悪いわけではありません。
使用条件に対して必要な始動トルクを確保でき、適切に保守されていれば、現在でも十分に使用できる方式です。
二次抵抗制御の仕組み
二次抵抗制御は、巻線形三相誘導電動機の回転子側へ外部抵抗器を接続し、抵抗値を段階的に変える方式です。
始動時は大きな抵抗を入れ、モーターが加速するにつれて電磁接触器で抵抗を順番に短絡します。
抵抗値を変えることで、トルクを確保しながらすべりを変化させ、回転速度を調整します。
二次抵抗制御のメリット
- 高い始動トルクを得やすい
- 始動電流を抑えられる
- 回路構成が比較的分かりやすい
- 既設モーターと制御盤を継続使用できる場合がある
- 半導体制御装置が少なく、故障原因を追いやすい
- 高温、粉じんなどの環境で長年使用されている実績がある
二次抵抗制御のデメリット
- 二次抵抗器で電力が熱として失われる
- 低速運転を長く続けると抵抗器の発熱が大きくなる
- カーボンブラシとスリップリングの点検が必要
- 接触器の接点が摩耗する
- ノッチ切替時に機械的な衝撃が出る
- 負荷の大小によって速度が変わりやすい
- 微速位置決めではインチング操作が増えやすい
三菱電機エンジニアリングでは、二次抵抗制御をFK制御と呼んでいます。
同社の比較表では、二次抵抗制御は横行、走行、旋回などの用途を対象とし、速度変動は低速時に大きく、段階制御であると整理されています。
二次抵抗制御を残す判断も間違いではない
二次抵抗制御は、インバータ制御より省エネ性や速度制御性で不利です。
しかし、省エネ効果だけで更新費用を回収できるとは限りません。
例えば、次のような設備を考えます。
- 巻上モーター9kW
- 巻線形
- 60%ED
- 二次抵抗制御
- 稼働頻度が低い
- 高精度な位置決めを必要としない
- モーターと減速機に大きな異常がない
このような設備では、インバータ、モーター、制御盤、配線、ブレーキ制御まで更新すると、年間の電気料金削減額に対して工事費が大きくなる可能性があります。
既設部品の状態が良く、交換部品を確保できるのであれば、二次抵抗制御を維持しながら、接触器、抵抗器、ブラシ、制御器を計画的に更新する方法も合理的です。
一方、接触器の廃止、抵抗器の腐食、スリップリングの摩耗、モーター絶縁の低下などが重なっている場合は、部分補修を繰り返すより、インバータ化した方が長期的に有利になることがあります。
サイリスタ制御の仕組み
クレーンで使われるサイリスタ制御は、主に巻線形三相誘導電動機の一次側電圧を制御する方式です。
各相にサイリスタを逆並列に接続し、点弧する位相を変えることで、モーターへ加える電圧と発生トルクを調整します。
速度検出器からの信号と速度指令を比較して制御するため、二次抵抗だけの方式よりも滑らかで、負荷変動に対して安定した速度制御が可能です。
三菱電機エンジニアリングでは、次の形式が示されています。
- CR-B制御:正転・逆転を含めてサイリスタで制御
- CR-C制御:正転・逆転は可逆電磁開閉器、速度はサイリスタで制御
日立産機システムの資料では、同様のサイリスタ一次電圧制御をVC制御と呼んでいます。
サイリスタ制御のメリット
- 二次抵抗制御より滑らかな速度制御が可能
- 低速から高速まで連続的に近い制御ができる
- 負荷変動に対する速度変化を抑えやすい
- 急激な始動ショックを減らせる
- 既設の巻線形モーターを活用できる
- 大容量クレーンで使用されてきた実績がある
サイリスタ制御のデメリット
- 巻線形モーターのブラシとスリップリングは残る
- 二次抵抗器と短絡用接触器が残る構成が多い
- 抵抗損失を完全にはなくせない
- サイリスタ盤、速度検出器、制御基板の保守が必要
- 旧型制御装置では電子部品の供給が難しくなる
- 電源波形や高調波への配慮が必要
- インバータと比べるとモーター制御の自由度が低い
既設巻線形モーターを残しながら操作性を改善する方法として有効ですが、新設設備ではインバータが選ばれる場面が増えています。
インバータ制御の仕組み
インバータは、商用交流を一度直流へ変換し、その直流から任意の周波数と電圧の交流を作る装置です。
三相誘導電動機の同期速度は、電源周波数と極数によって決まります。
そのため、インバータで周波数を変えることで、モーターの回転速度を連続的に調整できます。
クレーンでは、単純なV/F制御だけでなく、センサレスベクトル制御や、エンコーダを使用したベクトル制御が使われます。
インバータ制御のメリット
- 低速から高速まで滑らかに速度を変えられる
- 始動時から高いトルクを出しやすい
- 緩起動・緩停止が可能
- ノッチ切替時のショックを抑えられる
- 荷振れを減らしやすい
- 微速運転と位置決めがしやすい
- 軽負荷時の高速運転が可能な機種がある
- かご形モーターならブラシとスリップリングが不要
- 二次抵抗器と二次側配線を撤去できる
- ブレーキを減速後に作動させることで摩耗を減らせる
- 運転電流、トルク、速度などを監視できる
JEMAは、二次抵抗制御からインバータ制御へ変更する利点として、緩起動・緩停止、荷振れ抑制、安定した低速運転、軽負荷高速運転、保守点数の低減、ブレーキパッドの長寿命化を挙げています。
インバータ制御のデメリット
- 制御盤とインバータの初期費用が必要
- 半導体部品や冷却ファンには寿命がある
- 盤内温度と換気・冷却を管理する必要がある
- 高調波、ノイズ、漏れ電流への対策が必要
- モーター絶縁へのサージを確認する必要がある
- 低速連続運転ではモーター冷却能力が低下する場合がある
- 回生処理装置の選定が必要
- ブレーキ開放・投入タイミングの調整が必要
- パラメータ不良や制御回路異常で運転できなくなる
- 保全にはインバータと制御回路の知識が必要
インバータ化すれば、機械ブレーキを適当に調整してよいわけではありません。
インバータのトルク立上げ前にブレーキを開放すると、巻上げではつり荷がずり下がる可能性があります。
反対に、回生減速中に早くブレーキを掛けると、急制動となり、機械へ衝撃が加わります。
JEMAの資料でも、インバータ化する際は、ブレーキ閉と回生制動のタイミング調整が必要とされています。
クレーン用インバータの具体例
クレーン用途に特化したインバータには、一般産業用インバータとは異なる専用機能が搭載されています。
三菱電機 FR-A800-CRN
三菱電機のFR-A800-CRNは、クレーン用途向けの専用インバータです。
主な機能として、次の内容が公表されています。
- 制振制御
- 軽負荷時の高速運転
- ずり下がり対策
- ブレーキシーケンス
- 過荷重検出
- クレーン振動環境を考慮した仕様
制振制御では、横行・走行停止時の搬送物の揺れを抑え、作業時間の短縮を狙います。
安川電機 CR700
安川電機のCR700は、クレーン専用インバータです。
昇降、走行、横行に対応し、次のようなクレーン専用機能を備えています。
- ブレーキシーケンス
- 軽負荷高速運転
- 荷振れ抑制
- 2台巻上機の同期制御
- クレーン用モーターの制御
- 運転・保全情報の監視
クレーンに汎用インバータを使用できる場合もありますが、巻上げ用途では、ブレーキ制御、荷重方向、回生、過速、非常停止などを含めて選定する必要があります。
既設の巻線形モーターをインバータ化できるか
既設の巻線形モーターへインバータを適用する更新方法もあります。
一般的には、回転子の二次側を短絡し、一次側をインバータで制御します。
ただし、「二次側を短絡してインバータをつなげば使える」と単純に判断することはできません。
次の確認が必要です。
- モーターの絶縁状態
- 定格電圧、電流、出力
- ED定格
- 始動・最大トルク
- 低速時の温度上昇
- 冷却方式
- 回転子とスリップリングの状態
- エンコーダの取付可否
- インバータとのオートチューニング可否
- 高速運転時の機械強度
- ブレーキと減速機の許容回転速度
- メーカーの適用可否
既設巻線形モーターを流用すれば、モーター本体、架台、カップリングの改造を減らせる可能性があります。
一方、モーター自体が老朽化している場合は、制御盤だけを新しくしても、近い将来モーター更新が必要になる可能性があります。
長期的な保全を考えると、かご形モーターへ交換した方が有利な場合もあります。
インバータの回生処理は3種類ある
巻上げ・巻下げを行うクレーンでは、モーターが電力を消費する電動状態と、モーターが発電機として働く回生状態があります。
特につり荷を巻き下げるときや、走行・横行を減速するときに回生エネルギーが発生します。
インバータ化では、この電力をどう処理するかが重要です。
制動抵抗器で熱に変える
標準的な構成では、回生電力を制動抵抗器で熱として消費します。
構成は比較的簡単ですが、回生エネルギーを再利用することはできません。
高頻度運転では、抵抗器の容量、発熱、設置場所、換気を確認する必要があります。
電源回生コンバータで電源へ戻す
回生コンバータを設置し、巻下げや減速で発生した電力を工場の電源系統へ戻す方式です。
回生頻度が高いクレーンでは、省エネ効果が期待できます。
ただし、回生コンバータ、リアクトル、フィルタ、盤スペースなどが必要となり、初期費用が上がります。
マトリクスコンバータで直接回生する
マトリクスコンバータは、交流電源から任意の周波数・電圧の交流を直接作る方式です。
一般的なインバータのような直流中間回路を持たず、双方向スイッチによって交流から交流へ直接電力変換します。
電力の流れを双方向に制御できるため、巻下げや減速時の回生電力を電源へ戻せます。
マトリクスコンバータとは
安川電機のU1000は、高力率電源回生形のマトリクスコンバータです。
安川電機の公式資料では、三相交流電源に9個の双方向スイッチをマトリクス状に配置し、任意の電圧と周波数を直接作る装置と説明されています。
マトリクスコンバータのメリット
- 回生電力を電源へ戻せる
- 制動抵抗器の発熱を減らせる
- 回生コンバータを別置きしなくてよい
- 電源高調波を抑えやすい
- 入力力率が高い
- 直流中間回路用の大型電解コンデンサを持たない
- 周辺機器と盤スペースを削減できる場合がある
- 高頻度で加減速・巻下げを行う設備に向く
安川電機はU1000について、電源電流ひずみ率5%以下、入力力率0.98以上を公表しています。
また、回生コンバータや高調波フィルタを別置きする構成と比べ、盤スペースを削減できるとしています。
マトリクスコンバータのデメリット
- 機器単価が高くなりやすい
- 選定・調整に専門知識が必要
- 一般的なインバータより選択できるメーカーや機種が少ない
- 故障時の代替品を確保しにくい場合がある
- 既設盤への組込みでは電源・配線・スペースの確認が必要
- すべてのクレーンで費用回収できるとは限らない
- 保守担当者への教育と予備品計画が必要
マトリクスコンバータは、インバータより必ず優れている装置ではありません。
回生頻度が低い設備では、回生機能による省エネ額が小さく、標準インバータと制動抵抗器の方が経済的な場合があります。
クレーンの省エネはポンプやファンと考え方が違う
ポンプやファンでは、回転速度を下げると必要動力が大きく減るため、インバータ化による省エネ効果が分かりやすく現れます。
一方、クレーンの巻上げでは、同じ質量の荷物を同じ高さまで持ち上げるために必要な位置エネルギーは変わりません。
そのため、インバータを付けただけで、消費電力が大幅に減るとは限りません。
クレーンで期待できる省エネ要素は、主に次の内容です。
- 二次抵抗器で発生していた損失の削減
- 接触器や回路で発生する損失の削減
- 効率の良いモーターへの更新
- 軽負荷高速運転による作業時間短縮
- 回生電力の再利用
- 待機時の制御機器電力削減
- 荷振れ低減によるやり直し操作の削減
標準インバータで回生電力を制動抵抗器へ流す構成では、巻下げエネルギーは熱として失われます。
大きな省エネを狙う場合は、電源回生コンバータやマトリクスコンバータの検討が必要です。
ただし、安川電機が公表している「約50%の省エネ」などの数値は特定の適用例であり、すべてのクレーンへそのまま当てはめることはできません。
実際の効果は、荷重、巻上高さ、巻下げ頻度、運転時間、モーター容量、回生時間から算出する必要があります。
制御方式ごとの費用比較
クレーンの更新費用は、モーターやインバータ本体の価格だけでは決まりません。
制御盤、配線、抵抗器、ブレーキ、エンコーダ、PLC、試運転、調整、機械加工などを含めた総工事費で比較する必要があります。
| 更新方法 | 初期費用の傾向 | 維持費の傾向 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 既設二次抵抗制御を継続 | 低 | 中~高 | 低頻度、状態良好 |
| 接触器・抵抗器のみ更新 | 低~中 | 中 | 部分的な老朽化 |
| サイリスタ盤へ更新 | 中~高 | 中 | 巻線形モーターを活用 |
| 巻線形モーター流用+インバータ | 中~高 | 中 | モーター状態が良い |
| かご形モーター+インバータ | 高 | 低~中 | 長期使用、高頻度 |
| インバータ+電源回生装置 | 高 | 低 | 回生頻度が高い |
| マトリクスコンバータ | 高 | 低 | 高頻度、回生・高調波重視 |
この表は、必要機器と改造範囲を基にした相対的な傾向です。
メーカーの制御装置はオープン価格や個別見積もりが中心であり、設備ごとに条件が違うため、一律の金額を示すことはできません。
費用を左右する主な条件
- モーター容量
- 200V級か400V級か
- 低圧か高圧か
- 巻上げ、横行、走行のどの軸を更新するか
- モーターを流用するか交換するか
- ED定格と始動回数
- 低速運転時間
- エンコーダの有無
- 制動抵抗器か電源回生か
- 既設制御盤の再利用可否
- PLCや操作器の更新
- ブレーキ電源とブレーキ制御の変更
- 架台、カップリング、軸芯調整
- 電源容量と高調波対策
- 盤用クーラーや換気設備
- 現地配線、試運転、荷重試験
- 生産設備の停止可能期間
インバータ本体だけを比較して安い・高いと判断すると、実際の工事費との差が大きくなることがあります。
どの方式を選ぶべきか
既設二次抵抗制御の継続が向くケース
- 稼働頻度が低い
- 位置決め精度を必要としない
- モーターと制御盤の状態が良い
- 保守部品を入手できる
- 保全担当者が構造を理解している
- 更新費用の回収が難しい
サイリスタ制御の継続・更新が向くケース
- 既設巻線形モーターを活用したい
- 大容量モーターの交換が難しい
- 既存機械の特性を大きく変えたくない
- サイリスタ盤や速度検出器を保守できる
- 対応メーカーから更新提案を受けられる
インバータ化が向くケース
- 始動・停止の衝撃を減らしたい
- 微速運転を安定させたい
- 荷振れを抑えたい
- 接触器、ブラシ、抵抗器の保守を減らしたい
- 高頻度で使用する
- 今後も長期間使用する
- 操作性と停止精度を上げたい
- 運転データを監視したい
マトリクスコンバータが向くケース
- 巻下げ・減速回生が多い
- 連続的に高頻度運転する
- 制動抵抗器の発熱を減らしたい
- 高調波対策を重視する
- 回生装置を含めた盤スペースを小さくしたい
- 初期費用より長期的な電力・設備効率を重視する
インバータ化する前に確認したい注意点
既設クレーンのインバータ化では、制御盤だけでなく、クレーン全体を確認する必要があります。
モーター
- 絶縁抵抗
- 巻線抵抗
- 軸受状態
- 冷却方式
- 定格電流
- ED定格
- 低速時の温度上昇
- インバータサージへの適合
- エンコーダ取付可否
ブレーキ
- 必要制動トルク
- 開放電圧
- 開放時間
- 投入時間
- ギャップ
- ライニング摩耗
- 整流器
- インバータのトルク確立とのタイミング
- 非常停止時の制動仕事量
機械設備
- 減速機の許容回転速度
- カップリング
- ドラム
- ワイヤロープ
- 車輪
- レール
- 機械共振
- 高速運転時の強度
- 軽荷重高速運転の可否
電気設備
- 電源容量
- 遮断器
- 電磁接触器
- 高調波
- ノイズ
- 接地
- 漏れ電流
- 制動抵抗器
- 盤内温度
- 盤用クーラー
- 非常停止回路
- 上限・下限リミット
- 過速保護
インバータ化によって操作性が良くなっても、既設の減速機、ブレーキ、ドラム、構造部分が高速・高頻度運転に耐えられるとは限りません。
軽負荷高速運転を追加する場合は、モーターだけでなく機械側の許容回転速度を確認する必要があります。
「省エネになるからインバータ化」だけで判断しない
インバータ制御には、操作性、保守性、安全性、低速性能、荷振れ低減など多くのメリットがあります。
しかし、クレーン更新では、省エネだけを理由にすると費用対効果が合わない場合があります。
判断するときは、次の3つに分けて効果を算出すると分かりやすくなります。
電力面の効果
- 二次抵抗損失の削減
- 回生電力の再利用
- 高効率モーターへの更新
保全面の効果
- ブラシ交換の削減
- 接触器交換の削減
- 抵抗器の点検削減
- ブレーキ摩耗の削減
- 故障停止時間の短縮
作業面の効果
- 荷振れの低減
- 微速操作の改善
- 位置決め時間の短縮
- 操作員の負担軽減
- 荷崩れや衝撃の低減
- 軽荷重時の作業時間短縮
電気料金だけでは回収できなくても、保守費用、停止損失、作業時間を含めるとインバータ化が有利になることがあります。
反対に、年に数回しか使用しないクレーンでは、保全効果を含めても既設維持が有利な場合があります。
まとめ|設備の使い方に合った方式を選ぶ
クレーン用モーターと制御方式の違いをまとめると、次のようになります。
- 三相誘導電動機には、かご形と巻線形がある
- 二次抵抗制御は巻線形モーターだけに使用できる
- 二次抵抗制御は始動トルクに優れるが、抵抗損失と保守部品が多い
- サイリスタ制御は巻線形モーターを使用し、一次電圧を制御する
- インバータ制御は周波数と電圧を変え、速度とトルクを制御する
- かご形モーターとインバータの組み合わせは保守点数を減らしやすい
- 標準インバータでは回生電力を抵抗器で熱にする構成も多い
- 回生コンバータやマトリクスコンバータでは回生電力を再利用できる
- マトリクスコンバータは高調波、回生、盤スペースで有利になる場合がある
- 低頻度設備では二次抵抗制御を維持する判断も合理的
- 更新時は省エネだけでなく、保守、操作性、停止精度、工事費を含めて判断する
二次抵抗制御は古い方式ですが、古いという理由だけで交換する必要はありません。
一方、部品供給、保守人員、運転頻度、停止精度などに課題が出ている場合は、インバータ化を検討する時期と考えられます。
クレーンの更新では、モーターや制御盤だけを見るのではなく、ブレーキ、減速機、ドラム、電源、操作方法まで含め、設備全体で方式を選定することが重要です。
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参考情報
JEMA|一般用低圧三相かご形誘導電動機をインバータ駆動する場合の適用指針


