天井クレーンを安全に使い続けるためには、年に1回の年次自主検査だけでなく、毎月行う月例点検も重要です。
現場では「月例点検」や「月次点検」と呼ばれることが多いですが、クレーン等安全規則では、1か月以内ごとに行う「定期自主検査」として定められています。
天井クレーンは、毎日問題なく動いているように見えても、ブレーキ、ワイヤロープ、フック、電気設備、安全装置などに少しずつ異常が進行することがあります。
月例点検は、こうした異常を早い段階で見つけ、重大な故障や事故を防ぐための大切な点検です。
この記事では、クレーン等安全規則第35条に基づく月例点検の項目、天井クレーンで確認したい実務上のポイント、年次点検や作業開始前点検との違いを整理します。
月例点検とは|クレーン等安全規則第35条の定期自主検査
クレーン等安全規則第35条では、事業者に対して、クレーンについて1か月以内ごとに1回、定期に自主検査を行うことを求めています。
一般的に「月例点検」や「月次点検」と呼ばれるものが、この定期自主検査です。
月例点検は、年次自主検査ほど広範囲な分解・詳細点検や荷重試験を行うものではありません。
その代わり、使用中に劣化や異常が起こりやすい安全装置、ブレーキ、ワイヤロープ、つり具、電気設備を重点的に確認します。
法令上、月例点検で確認する事項は、主に次の5項目です。
- 巻過防止装置などの安全装置、過負荷警報装置などの警報装置、ブレーキおよびクラッチ
- ワイヤロープおよびつりチェーン
- フック、グラブバケットなどのつり具
- 配線、集電装置、配電盤、開閉器およびコントローラー
- ケーブルクレーンの場合は、ロープ緊結部およびウインチ据付状態
一般的な天井クレーンでは、最後のケーブルクレーンに関する項目を除く4項目が、主な月例点検の対象になります。
安全装置・警報装置・ブレーキで確認したいこと
月例点検で特に重要なのが、安全装置とブレーキです。
巻過防止装置、非常停止装置、過負荷警報装置などは、異常時にクレーンを停止させたり、運転者へ危険を知らせたりする役割があります。
天井クレーンでは、次のような点を確認します。
- 巻過防止装置が定められた位置で確実に作動するか
- 非常停止装置で確実に停止できるか
- 過負荷警報装置が装備されている場合、正常に警報を出すか
- 巻上、横行、走行の各ブレーキに滑りや片効きがないか
- ブレーキ作動時に異音、異臭、振動、発熱がないか
- ブレーキドラム、ライニング、ディスクなどに著しい摩耗や損傷がないか
- ブレーキを開放する電磁石、整流器、押上機などが正常に作動するか
無荷重では問題なく見えても、実際の荷をつった状態でブレーキの保持力不足が現れることがあります。
月例点検では、日常の運転で感じた「止まりが甘い」「落下停止時のショックが大きい」「ブレーキの音が以前と違う」といった変化も、見逃さないことが大切です。
ワイヤロープ・つり具で確認したいこと
ワイヤロープやフックブロックは、直接荷を支える重要な部分です。
少しの損傷や変形でも、使用条件によっては重大な事故につながるおそれがあります。
ワイヤロープでは、次のような点を確認します。
- 素線切れが増えていないか
- キンク、つぶれ、形崩れがないか
- 著しい腐食やさびがないか
- ドラム上で乱巻きしていないか
- シーブやドラムとの接触部に異常摩耗がないか
- 端末金具、ロープクリップ、取付け部に緩みや脱落がないか
- 給油状態が適正か
- 砂、ほこり、水分などが著しく付着していないか
フックやフックブロックでは、次のような点を確認します。
- フック本体に亀裂、変形、著しい摩耗がないか
- フックの口開きが大きくなっていないか
- フックの回転部やねじ部に異常ながたがないか
- 外れ止め装置が確実に作動するか
- サイドプレート、ボルト、ナット、割ピンなどに緩みや脱落がないか
- グラブバケット、油圧バケットなどのつり具に亀裂や変形がないか
ワイヤロープやつり具は、年次点検だけで確認するものではありません。
月例点検で状態の変化を継続して確認することで、交換時期や補修の判断がしやすくなります。
電気設備・操作装置で確認したいこと
天井クレーンでは、機械部分だけでなく電気設備の異常も故障や事故につながります。
特に、長年使用している設備では、ケーブルの劣化、集電装置の摩耗、接触器の消耗、操作スイッチの不良などが起こりやすくなります。
月例点検では、次のような点を確認します。
- 配線の被覆に傷、硬化、ひび割れ、たるみがないか
- 給電ケーブルに曲がり、ねじれ、摩耗、引っ掛かりがないか
- 集電子やトロリ線の接触状態に異常がないか
- 配電盤内の配線用遮断器、開閉器、電磁接触器などに異常がないか
- 接触器の接点に著しい荒れや摩耗がないか
- コントローラーやペンダントスイッチが円滑に操作できるか
- ペンダントスイッチのボタン、表示、ケース、吊下げ部に損傷がないか
- 無線コントローラーを使用している場合、送信機の停止スイッチや操作ボタンが正常に作動するか
電気設備の異常は、突然の停止や誤作動だけでなく、接触不良による発熱、焼損、感電リスクにもつながります。
「たまに動かない」「押しても反応が遅い」「接触器の音がいつもと違う」といった小さな異常も、月例点検で記録しておくことが大切です。
月例点検と作業開始前点検・年次点検の違い
クレーンの点検には、月例点検以外にも作業開始前点検や年次自主検査があります。
それぞれ目的と頻度が異なるため、混同しないように整理しておくことが大切です。
作業開始前点検
クレーン等安全規則第36条では、クレーンを用いて作業を行う日は、作業を開始する前に点検することが定められています。
主な点検項目は、次のとおりです。
- 巻過防止装置、ブレーキ、クラッチ、コントローラーの機能
- ランウェイ上およびトロリ横行レールの状態
- ワイヤロープが通っている箇所の状態
作業開始前点検は、その日の作業を安全に始められる状態かを確認するための点検です。
月例点検
月例点検は、1か月以内ごとに行う定期自主検査です。
安全装置、ブレーキ、ワイヤロープ、つり具、電気設備などについて、日常点検より一段踏み込んだ確認を行います。
クレーン等安全規則第35条の月例点検には、荷重試験の規定はありません。
年次自主検査
年次自主検査は、クレーン等安全規則第34条に基づき、1年以内ごとに行う定期自主検査です。
構造部分、機械装置、電気設備、安全装置などを総合的に確認し、原則として定格荷重相当での荷重試験も行います。
天井クレーンの年次点検については、こちらの記事で詳しく解説しています。
天井クレーンの年次点検とは|クレーン等安全規則第34条・荷重試験・性能検査の違い
1か月を超えて使用しないクレーンを再使用する時の注意
クレーン等安全規則第35条では、1か月を超える期間使用しないクレーンについては、その使用しない期間中の月例点検は不要とされています。
ただし、再び使用を開始する際には、月例点検と同じ項目について自主検査を行う必要があります。
長期間停止していたクレーンでは、次のような異常が発生していることがあります。
- ブレーキの固着や作動不良
- ワイヤロープの腐食や給油不足
- 電気接点の酸化や接触不良
- 集電装置や給電ケーブルの劣化
- 潤滑不足による異音や動作不良
- 雨水や結露による絶縁不良
「動くから大丈夫」と判断せず、再使用前に月例点検の項目を確認してから運転を開始することが重要です。
暴風・地震後の点検も忘れない
屋外に設置されているクレーンでは、月例点検とは別に、強風や地震の後にも点検が必要になる場合があります。
クレーン等安全規則第37条では、屋外クレーンを用いて、瞬間風速が毎秒30mを超える風が吹いた後に作業を行う時、または中震以上の地震の後に作業を行う時は、あらかじめクレーン各部の異常の有無を点検することが定められています。
屋外クレーンでは、レールの変形、走行装置のずれ、アンカーやストッパーの異常、集電装置の破損なども確認が必要です。
点検記録は3年間保存する
月例点検の結果は、記録して3年間保存する必要があります。
記録には、少なくとも次のような内容を残しておくと管理しやすくなります。
- 点検日
- クレーンの名称、号機、設置場所
- 点検者
- 点検項目ごとの結果
- 異常の内容
- 補修や部品交換の内容
- 補修完了日
- 確認者
なお、クレーン等安全規則第38条では、作業開始前点検を除く自主検査および点検の結果を3年間保存することが求められています。
月例点検の記録を積み重ねておくことで、同じ不具合の再発傾向、部品の交換履歴、故障前の兆候などを把握しやすくなります。
異常を見つけた時は補修を行う
月例点検で異常を認めた場合は、そのまま使用を続けるのではなく、必要な補修を行うことが重要です。
クレーン等安全規則第39条では、自主検査または点検で異常を認めた場合、直ちに補修することが定められています。
実務では、異常の程度によって、使用停止、応急措置、部品手配、メーカーや保全業者への相談など、対応を分ける必要があります。
特に、ブレーキ、ワイヤロープ、フック、安全装置、電気系統に関する異常は、重大事故につながるおそれがあるため、安易に自己判断しないことが大切です。
まとめ
天井クレーンの月例点検は、クレーン等安全規則第35条に基づく、1か月以内ごとの定期自主検査です。
主な点検項目は、安全装置・警報装置・ブレーキ、ワイヤロープ・つりチェーン、フックなどのつり具、電気設備・操作装置です。
月例点検は、年次自主検査の代わりではありません。
毎日の作業開始前点検、月例点検、年次自主検査をそれぞれ適切に行うことで、天井クレーンを安全に使用できる状態に保つことができます。
また、月例点検の結果は3年間保存し、異常を認めた場合は必要な補修を行うことが重要です。
※本記事は、2026年6月時点の一般的な制度および点検の考え方を紹介するものです。クレーンの種類、構造、使用環境、メーカー仕様、社内規程などにより、具体的な点検方法や判定基準は異なります。実際の点検・補修については、メーカー、クレーン保全業者、所轄労働基準監督署などへ確認してください。


