クレーンを使って屋上工事をする。そのクレーン自体を、どうやって屋上へ運ぶのか。
パリ西部ラ・デファンスの高層ビル「Opus 12」で、Liebherrのデリッククレーン「200 DR 5/10 Litronic」を、小部材に分けて貨物エレベーターとヘリコプターで搬入する施工が行われた。
Liebherrが2026年10月15日に公表した事例だ。ヘリによる搬入は同年5月に実施されており、10月に施工が完了したという発表ではない。
この事例で注目したいのは、クレーンの吊上げ能力だけでなく、搬入できる部材の寸法と重量、屋上での荷重支持、最後の撤去までを考えて施工方法を組み立てた点だ。
通常のタワークレーンを使いにくかった理由
Opus 12は高さ約100m、26階建てのビル。Legendreによる改修の一環として、屋上に新たな設備を設ける工事が進められている。
現場には、二つの制約があった。周辺道路が狭く大型の連結式トラックで直接搬入しにくいことと、既存の屋上構造では通常のタワークレーンの荷重を支えられないことだ。
そこで採用されたのが、小さな部材へ分解して現地で組み立てられるデリッククレーンだった。
200 DR 5/10 Litronicは、Liebherrの資料ではクレーンの解体作業向けに開発された機種と説明されている。今回のパリでは、別のクレーンを解体するためではなく、屋上工事用の資材を揚重するために使用された。
エレベーターとヘリで、部材の搬入を分担
屋上までの搬入では、部材の大きさに応じて二つの方法を使い分けた。
| 搬入方法 | 主な対象・公表内容 |
|---|---|
| 貨物エレベーター | バラスト、ピン、接続部材、支持梁などの小部材。最も重いものは約1,200kg |
| ヘリコプター | エレベーターに入らないタワー部分やジブなどの組立部材。最も重いものは約1t |
使用したヘリはAirbus H225 Super Puma。長さ80mの吊り下げ索を使い、クモ型クレーンも含む部材の搬入を6便、約30分で行ったという。
約30分は、ヘリによる部材搬入の時間であり、架台施工やデリッククレーンの組立まで含めた総工期ではない。
また、搬入方法ごとの最大重量を比べて「重い部材はすべてヘリ」と読むのも適切ではない。エレベーターへ収まる寸法かどうかも、使い分けの重要な条件になっている。
屋上に置くために、建物の支持構造まで荷重を伝える
部材を屋上へ運べても、そのままクレーンを設置できるわけではない。
今回の施工では、専用の鋼製架台を設けた。屋根を複数箇所で開口し、建物の荷重を支える構造へ鋼製部材をつなぎ、デリッククレーンの荷重を伝える構成としている。
Liebherr側がクレーンの荷重・構造計算用データ・技術要件を示し、顧客側の施工チームが架台を設計したという。
現場目線では、「屋上に載せられる重量」だけでなく、吊り荷や旋回などに伴う作用を、どの経路で建物へ伝えるかが重要になる。クレーンの支持部から建物側までを、一体として検討する必要がある。
架台の具体的な寸法、接合部、支持点ごとの反力や補強量は公表されていない。今回の事例は、他のビルでも同じ架台や機種を使えることを示すものではない。
最後にクレーンを下ろす計画も必要
屋上工事では、資材を上げる段階に加え、工事を終えた後に揚重設備を撤去する段取りも欠かせない。
Liebherrのデリッククレーンの製品資料では、部材へ分解し、寸法と重量に応じて建物のエレベーターで下ろす考え方が示されている。
ただし、これは機種の一般的な説明だ。パリの現場で、どの部材をどの方法で下ろすかという詳細な撤去手順は、今回の発表には示されていない。
既存建物の設備更新に置き換えると、完成後に搬出口がふさがれないか、設備や配管の施工後も分解・搬出に必要な空間が残るか、といった点まで計画時に確認したい。
搬入・荷重支持・撤去をつなげて考える
この事例の面白さは、ヘリでクレーンを運んだという見た目の迫力に加え、現場条件に合わせて工程を組み合わせたところにある。
エレベーターへ入る部材は建物内から運び、入らない部材は空から運ぶ。屋上では専用架台を介して建物の支持構造へ荷重を伝え、作業後には再び分解して搬出する。
クレーンを選ぶ際には、必要な能力とともに、「現場へ持ち込めるか」「設置できるか」「最後に持ち出せるか」を考える。その重要性が分かる屋上工事の事例だ。
機械の構成を施工条件に合わせる別の事例として、Liebherrの800t級クレーンをX3ブーム仕様へ改造し、風車施工に投入した事例も紹介している。
参考・出典
- Liebherr|パリの高層ビル屋上へのデリッククレーン搬入(2026年10月15日、英語)
- Liebherr|200 DR 5/10 Litronicとデリッククレーンの施工支援資料(英語・PDF、2012年表記)
※本記事は2026年10月18日までに確認できた公表情報をもとに作成しています。施工条件はLiebherrの発表に基づきます。アイキャッチは構想イメージであり、実際の施工写真ではありません。


