2026年7月9日、日鉄エンジニアリングは、神戸市中央区のポートアイランドで、マルチテナント型ライフサイエンス研究開発施設「アイパーク神戸」を着工したと発表しました。
建物は地上8階建ての鉄骨造で、延床面積は約12,000㎡、使用する鉄骨重量は約2,000tです。
研究機関、医療関連企業、スタートアップなどが入居することを想定し、個別空調、給排水設備、個別ダクトスペース、耐薬加工を施したフリーアクセスフロアなどを備えます。
一般的な事務所や物流施設とは異なり、入居する研究内容に応じて設備を柔軟に変更できる研究開発施設です。
アイパーク神戸の概要
公式発表で公表されている主な内容は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設名 | アイパーク神戸 |
| 開発者 | 三菱商事都市開発株式会社 |
| 施工 | 日鉄エンジニアリング株式会社 |
| 所在地 | 神戸市中央区港島南町6丁目3-1 |
| 用途 | マルチテナント型ライフサイエンス研究開発施設 |
| 構造 | 鉄骨造・耐震構造 |
| 規模 | 地上8階、塔屋1階 |
| 延床面積 | 約12,000㎡ |
| 鉄骨重量 | 約2,000t |
| 着工 | 2026年7月 |
| 竣工予定 | 2027年秋 |
神戸新交通ポートライナーの「計算科学センター」駅と、連絡デッキで直結する予定です。
三宮駅からは約16分、神戸空港駅からは約6分とされ、研究者や企業の従業員が通勤しやすい立地です。
空港から短時間で移動できるため、国内外の企業や研究機関との連携にも適した場所といえます。
マルチテナント型研究開発施設とは
マルチテナント型施設は、1つの建物を複数の企業や研究機関が区画ごとに利用する仕組みです。
一般的なオフィスビルでは、机、照明、コンセント、空調などが主な設備になります。
一方、ライフサイエンス分野の研究施設では、研究内容に応じて次のような設備が必要になります。
- 実験機器用の電源
- 給水・排水
- 排気ダクト
- 個別空調
- 薬品に対応した床
- 機器搬入経路
- 非常用電源やBCP設備
- 将来のレイアウト変更への対応
研究内容や使用する装置は、入居するテナントごとに異なります。
そのため、完成時点ですべての設備を固定するのではなく、入居後に必要な設備を増設・変更しやすい建物が求められます。
アイパーク神戸は、複数の研究企業が入居できる共通基盤を建物側で準備し、各テナントの研究内容に合わせて区画を構成する施設です。
個別空調でテナントごとの条件に対応
研究開発スペースには、個別空調が導入されます。
一般的なビルの中央空調では、複数区画をまとめて運転することがあります。
しかし、研究施設では、テナントごとに使用時間、発熱量、必要な温度条件、換気量などが異なる場合があります。
個別空調であれば、各区画の使用条件に合わせて運転しやすくなります。
また、研究装置から発生する熱や、実験時間の違いにも対応しやすくなります。
公式発表では、空調方式や温湿度の設定範囲までは公表されていません。
そのため、クリーンルーム性能や恒温恒湿性能が標準で備わると断定することはできません。
公表されているのは、テナントごとの研究環境に対応するため、個別空調を実装するという点です。
給排水設備と個別ダクトスペース
研究スペースには、給排水設備と個別ダクトスペースが設けられます。
研究室では、洗浄、実験、分析装置、流し台などで水を使用することがあります。
排水についても、一般排水と同じ扱いができるものばかりとは限らないため、入居する研究内容や使用物質に応じた計画が必要です。
個別ダクトスペースは、各テナントが必要とする排気設備を設置するための経路として重要です。
研究装置や局所排気設備を後から追加する場合、ダクトを屋外や屋上まで通す経路が確保されていなければ、大規模な改修が必要になります。
あらかじめテナントごとのダクトスペースを設けることで、研究内容に合わせた設備計画を行いやすくなります。
耐薬加工のフリーアクセスフロア
床には、耐薬加工を施したフリーアクセスフロアが採用されます。
フリーアクセスフロアは、床下に配線や配管を通せる二重床です。
研究機器の配置変更や増設に合わせて、電源線、通信線、配管などを変更しやすい特徴があります。
さらに耐薬加工を施すことで、研究室で使用される薬品への対応を考慮しています。
ただし、耐薬性能は使用する薬品の種類、濃度、接触時間などによって異なります。
「耐薬加工」という表現だけで、すべての薬品に対応できるわけではありません。
実際の入居工事では、使用物質に応じて床材や防液堤、排水方法などを確認する必要があります。
フレキシブルな区画で入居者の変化に対応
アイパーク神戸は、テナントのニーズに合わせて区画を設定できる計画です。
研究開発企業は、事業の成長や研究段階によって、必要な面積や設備が変化します。
創業時は小規模な研究室で足りていても、研究員の増員や装置導入によって、より広い区画が必要になる場合があります。
反対に、研究テーマの変更によって、実験室と事務室の割合を見直すこともあります。
区画を柔軟に変更できる施設は、テナントの成長や研究内容の変化へ対応しやすくなります。
建築だけでなく、空調、電気、給排水、排気、通信などの設備も、将来の変更を考慮して計画することが重要です。
BCPと省エネルギーへの対応
公式発表では、BCP対応と省エネルギーなどの環境配慮を行うとされています。
BCPは、Business Continuity Planの略で、災害や停電などが発生した際に、事業を継続または早期復旧するための計画です。
研究施設では、停電によって次のような影響が出る可能性があります。
- 冷蔵・冷凍保管物の温度上昇
- 長時間継続していた実験の中断
- 培養設備や分析装置の停止
- 研究データの消失
- 空調・換気・排気設備の停止
公式発表では、非常用発電機の容量や給電対象、無停電電源装置の範囲までは公表されていません。
そのため具体的な設備構成は今後の情報を待つ必要がありますが、研究施設として事業継続を意識した建物であることが示されています。
省エネルギーについても、研究設備は一般的な事務所より電力や空調負荷が大きくなる場合があります。
研究環境を維持しながら、空調や照明などのエネルギー消費をどう抑えるかが設計上のポイントになります。
大開口窓と共用スペースで交流を促す
建物内には、大開口窓を設けた内部通路や共用スペースを配置します。
研究施設は、安全管理や情報管理のため、企業ごとの専用区画が中心になります。
一方で、異なる企業や研究者が同じ建物に入居する利点を生かすには、偶発的な交流が生まれる場所も必要です。
共用スペースを設けることで、テナント同士の情報交換や共同研究、新しい事業のきっかけが生まれることを狙っています。
建物を単なる貸し研究室の集合にするのではなく、企業や研究者がつながる拠点として計画されています。
神戸医療産業都市に新たな研究拠点
神戸医療産業都市は、阪神・淡路大震災からの復興事業として1998年に始まりました。
ポートアイランドには、医療関連企業、研究機関、大学、専門病院などが集積しています。
神戸医療産業都市の公式ポータルによると、2026年6月末時点で333社・団体が進出しています。
再生医療、医薬品、医療機器、ヘルスケアなどの分野で、研究開発から事業化までを支援する国内最大級のバイオメディカルクラスターです。
アイパーク神戸が完成すれば、新たに神戸へ進出する企業や、研究スペースを拡張したい企業の受け皿になります。
日鉄エンジニアリングが研究施設を施工する意味
日鉄エンジニアリングは、ごみ処理施設、エネルギー設備、製鉄プラントなどに加え、システム建築や物流施設、研究開発施設も手掛けています。
今回の建物には、約2,000tの鉄骨が使用されます。
鉄骨造は、大きな空間を確保しやすく、将来の区画変更や設備更新にも対応しやすい構造です。
研究施設の建設では、建築工事だけでなく、設備工事との調整が特に重要になります。
天井内や床下には、空調ダクト、給排水管、電気配線、通信線、排気設備などが集中します。
研究機器の配置や搬入条件も考慮しながら、建築と設備を一体で調整しなければなりません。
プラント建設で培われた工程管理、設備調整、鉄骨エンジニアリングの知見を、研究開発施設へ展開する案件として注目されます。
まとめ|研究内容の変化へ対応できる設備型の建物
アイパーク神戸は、複数の医療関連企業や研究機関が入居するマルチテナント型研究開発施設です。
今回のポイントをまとめると、次のとおりです。
- 神戸医療産業都市のポートアイランドに建設
- 地上8階、塔屋1階の鉄骨造
- 延床面積は約12,000㎡
- 鉄骨重量は約2,000t
- 2026年7月着工、2027年秋竣工予定
- 計算科学センター駅と連絡デッキで直結予定
- 個別空調、給排水設備、個別ダクトスペースを実装
- 耐薬加工のフリーアクセスフロアを採用
- テナントに合わせた柔軟な区画設定
- BCPと省エネルギーを考慮
- 共用空間によってテナント間の交流を促進
研究施設は、建物を完成させることがゴールではありません。
入居する企業の研究内容、装置、人数が変化しても、設備を改修しながら長期間使い続けられることが重要です。
アイパーク神戸は、鉄骨造の建築と、研究用途に対応した設備インフラを組み合わせた施設として、完成後の運用にも注目したい案件です。
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