JFEエンジニアリングは2026年9月17日、熊谷組との共同企業体で、神戸市水道局の「4拡送水トンネル更生工事」を受注したと発表しました。既存のトンネルに新しい鋼管を設け、送水機能を更新する工事です。JFEの発表
注目したいのは、長大な水路の内側に管を通す施工と、断層のずれに対応する鋼管の仕組み。そして、大切な送水路を改修する間も水を届けるための、神戸市の設備計画です。
工事の規模と更新内容
今回の工事は、JFEのアクアパイプライン工事として同社史上最大規模になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発注者 | 神戸市水道局 |
| 施工 | JFE・熊谷特定建設工事共同企業体 |
| 対象区間 | 本山接合井〜再度第3接合井 |
| 既存トンネル | 馬蹄形、内空約2,540mm |
| 新設する鋼管 | 口径2,100mm、延長約9.01km |
| 使用する鋼材 | 約6,830トン |
| 受注金額 | 工事全体で142億6,800万円・税抜き |
| 完成予定 | 2031年2月28日 |
接合井内の鋼板内張りも施工します。発表上の工期は、2026年9月予定の契約締結から約54か月です。金額は共同企業体が受注する工事全体のもので、JFE単独の受注分を示した数字ではありません。工事概要
「4拡送水トンネル」は、神戸の水を運ぶ幹線
「4拡」は「よんかく」と読み、神戸市の第4回拡張事業に由来します。運用開始は1964年。山中を通り、山陽新幹線とほぼ並行する位置にある送水トンネルです。神戸市公式note
この水路は、阪神水道企業団から受け入れた水道水を、市街地の東側から西側へ送る役割を担っています。神戸市の更新計画資料・12ページ
家庭の蛇口につながるまでには、こうした幹線で水を運び、配水池や配水管を通して各地域へ届ける工程があります。その上流にある大きな送水路の更新では、工事そのものと同時に、工事中の水の届け方を考える必要があります。
既存のトンネルに、新しい水の通り道をつくる
採用するのは「トンネル内配管工法」です。JFEは、既存の管に新しい管を入れるPIP(パイプ・イン・パイプ)工法と同様の工法と説明しています。受注発表
既存の空間を利用し、その内側に新しい管路を構築するのが基本的な考え方です。
JFEが公開するPIP工法の標準的な施工内容を整理すると、次のようになります。これは工法一般の説明で、今回の現場における詳細な施工手順を示すものではありません。
- 調査・清掃・測量で、内部の状態と新しい管を設置する位置を確認する。
- 鋼管を搬入・運搬し、据え付ける。
- 管同士を溶接し、非破壊検査で接合部を確認する。
- 隙間へのグラウト充填や現場溶接部の内面塗装を行い、管路を仕上げる。
グラウトは、隙間に流し込んで充填する材料です。PIP工法には、地上から管路全体を掘り返す範囲を抑えられる利点があります。一方、資材を入れる立坑など、施工のための設備は必要です。JFE・PIP工法カタログ
今回のような長いトンネルでは、管を据える作業に加えて、資材の運搬、溶接、検査、塗装を限られた空間でどう進めるかが施工計画の要点になります。
また、元のトンネルは馬蹄形です。内空寸法と新設鋼管の口径だけを比べても、更新前後の送水能力は判断できません。今回の受注発表では、更新後の計画送水量は示されていません。
断層用鋼管は、変形を受け持つ部分で通水を守る
今回の工区は、五助橋断層と諏訪山断層を横断する区間に当たり、断層用鋼管も採用されます。受注発表
断層が動く場所では、地盤がずれることで、そこを横切る管も大きな変形を受けます。その変位に対応するため、JFEの断層用鋼管は、まっすぐな管の途中に変形しやすい波形の部分を設けています。
この部分に変形を受け持たせ、水が通る断面を残す設計です。JFEは製品の特長として、数メートル規模の強制変位に対しても通水を確保できると説明しています。断層用鋼管の製品紹介
ここで大切なのは、管が変形した後も水を送れることです。鋼管のカタログでは、想定する断層変位に合わせて波形部分の数や配置を変え、変形が管の内側を塞ぐ方向へ進まないようにする考え方が示されています。断層用鋼管カタログ
ただし、製品一般の説明にある変位量を、そのまま今回の工区の保証値として読むことはできません。今回の発表では、採用する鋼管の配置や工区ごとの設計変位量までは公表されていません。
なお、この技術には神戸市の大容量送水管での採用実績があります。今回の見どころは、実績のある断層対策を、既存送水トンネルの更新にも組み込む点にあります。JFEの過去の採用実績
改修中の給水を支える「別の送水ルート」
長い送水トンネルの内部で工事をするには、その水路を止める必要があります。そこで役立つのが、2016年に完成した神戸市の大容量送水管です。
神戸市の2023年の説明によると、4拡送水トンネルは調査・改修に向けて2022年9月から送水を停止しました。その間の送水を支えられるよう、先に代替ルートを整えていたのです。神戸市公式note
山中の送水トンネルに対し、大容量送水管は市街地の地下を通ります。神戸市水道局は、ルートを分けてリスクを分散させ、トンネルの被災時や更生工事中に代替送水路として利用する仕組みを説明しています。神戸市水道局・大容量送水管
つまり、給水を続けられる理由は、別の水の通り道を確保していることにあります。工事対象のトンネルには水を流さず、ほかのルートで送水を支えるという設備全体の構成です。
さらに、神戸市の更新計画資料には、4拡送水トンネルが将来の大容量送水管の点検時に欠かせない送水路になることも明記されています。神戸市の更新計画資料・12ページ
現在は大容量送水管が古いトンネルの更新を支え、将来は更新したトンネルが大容量送水管の点検を支える。この相互の補完こそ、本件を設備保全の視点で読むうえで注目したいところです。
長く使うために、溶接・塗装・記録を積み重ねる
JFEは今回、内面塗装機、溶接品質管理システム、施工記録を一元管理するIT管理システムなども活用するとしています。受注発表
保全の視点では、鋼管本体の性能とともに、現場でつなぐ部分の品質も重要になります。溶接した場所を検査し、その部分の内面塗装を仕上げ、施工内容を記録する。前述のPIP工法の施工内容にも、こうした工程が含まれています。
特に、長い管路では「どの位置を、どのように施工・検査したか」を追えることが、その後の状態確認や補修判断の手掛かりになります。本件で施工記録の管理に注目する理由も、完成時の品質確認を将来の保全につなげる意味があるためです。
水を届け続けるために、止めて直せる設備へ
今回の工事には、既存空間を使って管路を更新する技術、断層変位に対応する構造、工事中の送水を支える代替ルートという、異なる役割の対策が組み合わされています。
FORGRAFT LABが注目するのは、更新した設備が、次の設備の点検を支えるという長期的な計画です。
インフラは、使い続ければ点検や補修が必要になります。そのときに止められる設備と、代わりを担う設備を用意しておく。神戸の送水トンネル更新は、水を届け続けるための保全を、設備全体でどう成立させるかを考える事例です。
関連する耐震改修の事例として、JFEによる来島海峡大橋の耐震補強工事も紹介しています。
参考・出典
- JFEエンジニアリング「4拡送水トンネル更生工事」を受注(2026年9月17日)
- 神戸市公式note「神戸の大動脈、水道の送水トンネルをお見せします!」(2023年3月16日)
- 神戸市・水道事業審議会第2回専門部会資料(2023年3月30日、12ページ)
- 神戸市水道局「災害に備えるための整備」
- JFEエンジニアリング・PIP工法カタログ
- JFEエンジニアリング・断層用鋼管
- JFEエンジニアリング・断層用鋼管カタログ
- JFEエンジニアリング・断層用鋼管の神戸市での採用実績(2017年10月19日)
※2026年9月18日までに確認した公開資料に基づきます。


