コベルコ建機が、欧州市場向けに75t級テレスコピックブームクローラクレーン「TKE750GLB」を投入しました。
名前の「LB」が示す通り、今回のポイントはLong Boom(ロングブーム)。
従来の欧州向けモデル「TKE750G」が最大30.1mだったのに対し、TKE750GLBでは最大35.0mまで延長されています。
最大吊上げ能力そのものは75tのまま。
つまり単純な大型化ではなく、実績のある75t級機の作業範囲をさらに広げた派生モデルです。
では、約5mブームが伸びたことで現場では何が変わるのでしょうか。
TKE750GLBとは?
TKE750GLBは、コベルコ建機が欧州市場向けに投入した75t級のテレスコピックブームクローラクレーンです。
2024年に欧州向けとして登場した「TKE750G」をベースに、ブームをロング化しています。
主な仕様を整理すると次の通りです。
| 項目 | TKE750GLB |
|---|---|
| 最大吊上げ能力 | 75.0t × 2.6m |
| メインブーム長 | 11.6~35.0m |
| 35mブーム時最大定格荷重 | 16.3t × 8.5m |
| 補助シーブ最大荷重 | 7.0t |
| 定格ラインプル | 68.6kN(7.0tf) |
| ワイヤロープ径 | 22mm |
| エンジン | Mercedes-Benz E9H01(Daimler OM936LA) |
| 排出ガス規制 | EU Stage V |
2026年9月7日から欧州向けに販売されています。
従来TKE750Gとの最大の違いは約5m長いブーム
従来モデルTKE750Gのメインブームは10.0~30.1m。
一方、TKE750GLBでは11.6~35.0mとなりました。
最大ブーム長だけを比較すると、
TKE750G:30.1m
TKE750GLB:35.0m
となり、約4.9m延長されています。
最大吊上げ能力はどちらも75t級なので、今回の狙いは単純に「もっと重いものを吊る」ことではありません。
より高い場所、より離れた場所までフックを持っていけるようにすることで、75t級テレスコクローラが対応できる現場を広げています。
プラント設備工事や基礎工事などでも、機械の据付位置を対象物のすぐ近くに確保できるとは限りません。
配管や既設設備、建屋、掘削部などを避けながら吊り込む場合、数mのリーチ差が作業計画へ影響するケースもあります。
「75t吊れる=35m伸ばして75t」ではない
クレーンでは当たり前の話ですが、スペックを見るときに注意したいのが最大吊上げ能力です。
TKE750GLBの「75t」は、11.6mブーム・作業半径2.6mでの最大定格荷重です。
ブームを35.0mまで伸ばした状態では、最大定格荷重は16.3t × 8.5mとなります。
つまり、
ブームが長くなる
→ 遠く・高くまで届く
→ その分、吊上げ能力は条件に応じて低下する
というクレーンの基本特性は変わりません。
「75t級で35mブーム」という数字だけを見るのではなく、実際の吊り計画ではブーム長、作業半径、吊荷重量をロードチャートで確認する必要があります。
テレスコクローラとはどんなクレーン?
TKE750GLBは「テレスコピックブーム」と「クローラ」を組み合わせたクレーンです。
一般的な大型クローラクレーンでは、複数の部材を組み立てるラチスブームが多く使われています。
一方、テレスコピックブームは箱形のブームを油圧で伸縮させます。
イメージとしては、
クローラクレーンの安定性・走破性
+
油圧式伸縮ブームの扱いやすさ
を組み合わせた機械です。
ブームを伸縮できるため、作業内容に応じたブーム長変更がしやすく、ラチスブームのようにブーム部材を現場で組み替える作業を減らせます。
特に作業場所が頻繁に変わる現場や、設置スペースが限られる基礎工事などでは、この特徴が生きてきます。
35mブームでも「Full-power Boom」を採用
TKE750GLBのロングブームには、コベルコ建機が「Full-power Boom System」と呼ぶ構造が採用されています。
ブームは4枚の鋼板で構成する箱形構造を基本とし、各ブームセクション内部に油圧シリンダを配置。
油圧によってブームを伸縮させます。
今回35mまでロング化するにあたり、材料、構造、溶接方法などを最適化し、TKEシリーズに求められる耐久性を維持したとしています。
単にブームを長くすると、自重や曲げモーメント、たわみなどの条件も厳しくなります。
そのため今回のロングブーム化では、「どこまで伸びるか」だけでなく、35m化しても従来シリーズと同じように使える耐久性を確保することが開発ポイントになっています。
ブームを付けた状態で輸送できる
今回かなり興味深いのが、35mのロングブーム仕様になっても、TKEシリーズの輸送性を維持していることです。
コベルコ建機はTKE750GLBについて、ブームを装着した状態で輸送可能としています。
現場へ到着してから長いラチスブームを組み立てる方式と比べ、作業開始までの準備を短縮できるのがテレスコクローラの強みです。
クレーンそのものの吊上げ性能だけでなく、
輸送
→ 現場搬入
→ 組立
→ 作業開始
→ 解体・搬出
まで含めて考えると、組立工程を減らせることは稼働率にも影響します。
特に短期間で現場を移動する用途では、最大吊上げ能力だけでは見えないメリットです。
ラチスブームクローラクレーンとの違い
では、テレスコクローラがあればラチスブームクローラクレーンは不要になるのでしょうか。
もちろん、そうではありません。
ラチスブームは構造的に軽量で長尺化しやすく、超高揚程や大容量の吊上げでは現在も大きな強みがあります。
一方、テレスコピックブームは油圧で伸縮でき、ブーム長を変更するための組立作業を抑えられます。
大まかに整理すると、
| テレスコピックブーム | ラチスブーム |
|---|---|
| 油圧で伸縮できる | ブーム部材を組み立てる |
| 段取り変更がしやすい | 長尺・大容量化しやすい |
| 比較的コンパクト | 大規模吊上げに強い |
| 短期間・多用途にも向く | 長期間の大型工事に向く |
どちらが優れているというより、現場条件による使い分けです。
TKE750GLBは、その中でも「75t級で比較的コンパクトに使え、さらに35mまで届く」という領域を狙った機械と言えます。
基礎工事との相性もTKEシリーズの特徴
ベースとなったTKE750Gは、コベルコ建機が基礎工事用途も強く意識して開発した機種です。
バイブロハンマ、オーガー掘削、オールケーシング工法で使用するハンマーグラブなど、高い油圧性能を必要とする作業にも対応しています。
TKE750GLBも同じTKEシリーズの基本設計を引き継いでいます。
単純な吊上げ作業だけでなく、「クローラの安定性+油圧性能+伸縮ブーム」を利用した多用途性が、このシリーズの特徴です。
エンジンはEU Stage V対応
搭載するエンジンはMercedes-Benz E9H01(Daimler OM936LA)。
水冷直列6気筒の直噴ターボディーゼルで、欧州の建設機械向け排出ガス規制「EU Stage V」に対応します。
欧州市場では排出ガス規制への適合が販売の前提となるため、TKE750GLBも欧州仕様としてStage V対応エンジンを搭載しています。
KCROSSで稼働状況や整備履歴も管理
TKE750GLBには、コベルコ建機の遠隔稼働管理システム「KCROSS」も搭載されています。
KCROSSでは、
・機械の稼働状況
・機械の位置
・メンテナンス履歴
などの情報を遠隔で確認できます。
クレーンは高額な設備であり、現場ごとの稼働率や整備時期の管理も重要です。
単に故障してから修理するのではなく、実際の稼働データを設備管理へ利用する考え方は、工場設備の予防保全とも共通しています。
実は「Long Boom」という考え方自体は新しくない
今回少し注意したいのが、TKE750GLBを「世界初の新型ロングブーム機」のように扱わないことです。
コベルコ建機のグローバルラインアップには、以前から75t級・35mブーム仕様の「TK750GLB」が存在しています。
今回新たに投入されたのは、欧州市場向けTKEシリーズとしての「TKE750GLB」です。
EU Stage V対応や欧州市場向け仕様を備えたTKE750Gをベースに、35mロングブーム仕様を追加したと見るのが正確です。
まとめ 75tのまま「届く範囲」を広げたTKE750GLB
TKE750GLBで面白いのは、最大吊上げ能力を大型化したことではありません。
75t級というクラスを維持しながら、
最大ブーム長を30.1mから35.0mへ延長
ブーム付き輸送を維持
油圧伸縮式による段取りのしやすさ
クローラによる安定性
KCROSSによる遠隔管理
を組み合わせ、対応できる作業範囲を広げています。
クレーンのスペックを見ると、どうしても「最大何トン吊れるか」に目が行きます。
しかし現場では、吊荷までの距離、必要な高さ、搬入条件、組立スペース、工期などが機種選定を左右します。
TKE750GLBは「75tをもっと重く吊るクレーン」ではなく、75t級テレスコクローラを、さらに遠く・高く・使いやすくするためのロングブーム仕様。
そう見ると、今回の35m化の狙いが分かりやすいのではないでしょうか。


