362台のポンプでシール費48%減 リチウム工場のメカニカルシール保全は何を変えた?

プラント保全・クレーン

プラントでポンプのトラブルを追っていると、何度も同じメカニカルシールを交換している設備に出会うことがあります。

漏れたから交換する。

また漏れたから交換する。

気付けば修理回数も部品代も増えている――。

そんな状態から、1年間でメカニカルシール費用を48%削減し、平均修理間隔を62%改善した事例が公表されました。

John Craneが2026年9月14日に発表したもので、対象は世界的なバッテリーグレード・リチウムメーカーの生産設備。

362台のポンプを対象に、メカニカルシールの保全方法そのものを見直しています。

興味深いのは、単純に「John Crane製のシールへ全部交換した」という話ではないことです。

対象設備に使われていたシールの約90%は他メーカー製。

それでも故障履歴、使用条件、補修方法、シール補助系統、作業者教育まで含めて管理したことで、大きな改善につなげています。

まず数字を見ると改善幅がかなり大きい

John Craneが公表した結果は次の通りです。

項目改善前改善後変化
年間シール使用数427個267個37%減
年間交換削減数―160個減―
平均修理間隔 MTBR10.2か月16.5か月62%改善
年間シール費―48%削減―
対象ポンプ362台362台―

1年間で交換するシールが160個減り、MTBRは10.2か月から16.5か月へ伸びました。

MTBRとは「Mean Time Between Repair」の略で、日本語では平均修理間隔などと呼ばれます。

簡単に言えば、

一度修理してから、次に修理が必要になるまで平均どれくらい使えたか

を見る指標です。

MTBRが長くなれば、故障や交換作業の頻度が下がり、設備停止や保全工数も減らせる可能性があります。

5年間でシール使用量は2倍以上になっていた

この工場では、もともとメカニカルシールの管理状態が悪化していました。

John Craneによると、2019年から2024年の5年間で、

・年間シール使用数が2倍以上へ増加
・MTBRは約半分へ低下
・年間シール費が120万ドルを超過

という状態になっていました。

しかも、この120万ドルには作業員の人件費や設備停止時間、生産ロスなどは含まれていません。

つまり、部品代だけでも大きなコストになっていたということです。

メカニカルシールはポンプ本体と比べれば小さな部品ですが、故障すれば液漏れや設備停止につながります。

交換回数が増えるほど、

・ポンプ停止
・分解作業
・芯出しや復旧
・試運転
・作業員の拘束
・予備品管理

といった周辺コストも積み重なります。

改善の中心は「故障を記録してつなげる」こと

今回の改善で重要なのが、デジタルによる故障履歴のトレーサビリティです。

John Craneは、現場へ信頼性エンジニアを配置し、ポンプやメカニカルシールごとの故障履歴を一元管理しました。

これまで個別に発生していた故障を、

どのポンプで
どのシールが
どんな条件で使われ
どんな壊れ方をしたのか

という形で追えるようにします。

設備保全では「また同じところが壊れた」という話はよくあります。

しかし、過去の交換履歴や故障原因が整理されていなければ、毎回同じ部品を交換して終わってしまうことがあります。

今回の取り組みでは、故障データを蓄積して繰り返し発生している原因を見つけ、優先して対策する設備を絞り込んでいます。

シールそのものだけを見ていない

メカニカルシールのトラブルというと、どうしてもシール本体を疑いたくなります。

しかし実際には、シールだけを交換しても再発するケースがあります。

John Craneが今回実施した内容には、

・用途に合わせたシール形式や材料の最適化
・修理方法の管理
・シールサポートシステムの改善
・設備ごとの技術レビュー
・保全員や運転員への技術教育

などが含まれています。

特に重要なのがシールサポートシステムです。

メカニカルシールは、使用する液体、圧力、温度、フラッシング、冷却、潤滑などの条件に大きく影響されます。

たとえばシール面が正常でも、

・フラッシュ量不足
・配管詰まり
・冷却不良
・ドライ運転
・キャビテーション
・異常振動
・芯ずれ

などがあれば寿命は短くなります。

「シールが壊れた」という結果だけではなく、なぜそのシールが壊れたのかまで見る必要があります。

約90%が他社製シールでも改善できた

今回の事例でもう一つ面白いのが、対象となったシールの約90%がJohn Crane以外のメーカー製だったことです。

つまり、

John Crane製へすべて交換したから数字が改善した

という単純な事例ではありません。

メーカーの異なるシールが混在する362台のポンプに対して、共通の故障履歴を作り、設備ごとの状態を整理しています。

これは実際のプラントに近い状況です。

長年稼働している工場では、

・建設当初の純正品
・過去の改造品
・メーカー変更品
・緊急時に採用した代替品

などが混在していることがあります。

設備ごとに違う部品が入っていても、保全履歴を同じ考え方で管理できれば、工場全体として故障傾向を見ることができます。

「壊れたら交換」から一段進んだ保全

今回の取り組みを見ると、メカニカルシールそのものよりも保全の考え方が重要だったことが分かります。

従来の流れが、

漏れる
↓
交換する
↓
運転再開

だったとすると、今回の流れは、

故障する
↓
故障履歴を残す
↓
運転条件・使用材料・補助系統を確認
↓
再発原因を分析
↓
優先設備から改善
↓
結果を再び履歴へ反映

というサイクルになっています。

一回の修理を「その場の復旧」で終わらせず、次の故障を減らすためのデータとして使うわけです。

これはメカニカルシールだけでなく、軸受、減速機、モータ、ブレーキなどほかの設備にも通じる考え方です。

現場で真似できるところはある?

362台規模の設備をJohn Craneのような専門メーカーと管理するのは、大規模プラントだからできる取り組みに見えるかもしれません。

ただし、考え方自体は小規模な設備保全でも使えます。

たとえばメカニカルシール交換時に、

・設備番号
・交換日
・使用期間
・メーカー、型式
・漏れ方
・分解時の状態
・シール面の傷
・Oリングの状態
・軸やスリーブの摩耗
・振動値
・運転圧力、温度
・フラッシング状態

などを残しておくだけでも、次回の故障時に比較できます。

同じポンプで1年ごとにシールを替えていたものが、8か月、6か月と短くなっていれば、単なる消耗ではなく何か条件が変わっている可能性があります。

逆に対策後に交換周期が伸びれば、その改善が有効だったことも数字で確認できます。

MTBRは「長ければいい」だけではない

MTBRが伸びることは設備保全では重要ですが、数字だけを追えばいいわけではありません。

運転条件や生産量が変われば、同じ設備でも負荷は変化します。

また、交換周期を無理に延ばして漏えいや設備停止のリスクを高めてしまえば意味がありません。

そのためMTBRは、

どの設備で
どの運転条件で
どんな故障が起きたか

とセットで見ることが重要です。

今回のJohn Craneの事例でも、単純な交換周期延長ではなく、故障履歴と技術レビューを組み合わせています。

部品代48%減以上の意味

今回発表された数字では、年間メカニカルシール費が48%削減されました。

しかし、設備保全として見ると、それ以上に大きいのが交換作業そのものが減ったことです。

年間160個のシール交換が減れば、

・分解作業回数の減少
・設備停止リスクの低減
・作業員の設備接触機会の減少
・緊急修理の減少
・計画保全へ使える時間の増加

につながります。

John Craneも、今回の改善によって保全担当者が計画的で価値の高い作業へ時間を使えるようになる点を挙げています。

設備保全では、部品代だけを見ると対策費が高く感じることがあります。

しかし、

故障しないことで減らせる作業時間や停止時間

まで含めると、見え方が変わることがあります。

まとめ シールを替える前に「なぜ壊れたか」を残す

今回のリチウム工場では、362台のポンプを対象にした保全管理によって、

年間シール費48%削減
シール使用量37%削減
MTBR62%改善

という結果が公表されました。

ただし、この結果は高性能なメカニカルシールを導入しただけで得られたものではありません。

故障履歴の一元管理、使用条件に合ったシール選定、修理管理、シールサポートシステム改善、技術教育まで組み合わせています。

特に現場保全で参考になるのは、

「交換した」という記録ではなく、「なぜ交換したのか」を残すこと。

同じ設備で故障が続いているなら、部品を替え続ける前に履歴を並べてみる。

それだけでも、保全の見え方が変わるかもしれません。

参考・出典

John Crane「John Crane helps lithium producer nearly halve seal expenditure in 12 months」

John Crane「Performance Plus® – Optimising Plant Performance」

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