大阪湾で、船から船へLNG燃料を供給する新しい燃料供給体制が実運用に入りました。
大阪ガスは2026年9月4日、神戸港に入港したLNG燃料自動車運搬船に対し、LNGバンカリング船「SETO AZURE(セト アズール)」を使ったShip to Ship方式によるLNG燃料供給を実施しました。
大阪ガスによると、大阪湾でShip to Ship方式によるLNGバンカリングが行われるのは今回が初めてです。
ただし、大阪ガスがShip to Ship方式そのものを今回初めて始めたわけではありません。
2026年4月21日には、JFEスチール西日本製鉄所福山地区でLNG燃料の鉄鋼原料船へ初めてShip to Ship方式で燃料を供給しています。
今回のポイントは、その供給体制が神戸港まで広がり、大阪湾でも実際の商用船へのLNGバンカリングが始まったことです。
LNGバンカリングとは?
「バンカリング」とは、船舶へ燃料を供給することです。
従来は重油などの船舶燃料が中心でしたが、海運分野でも温室効果ガスや大気汚染物質の排出削減が求められるなか、LNGを燃料に使用する船舶が増えています。
そのLNG燃料を船へ供給するのが「LNGバンカリング」です。
大阪ガスは現在、主要な3つの供給方式すべてに対応しています。
| 方式 | LNGの供給方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| Truck to Ship | 岸壁のタンクローリーから船へ供給 | 比較的柔軟に導入できる |
| Shore to Ship | 陸上LNGターミナルなどから船へ供給 | 陸上設備を直接利用できる |
| Ship to Ship | LNGバンカリング船から船へ供給 | 大型船への供給や供給場所の柔軟性に優れる |
今回神戸港で使われたのが、3つ目のShip to Ship方式です。
岸壁に係留中、または錨地に停泊中のLNG燃料船へLNGバンカリング船が接舷し、船から船へ直接LNGを移送します。
大阪ガスがShip to Shipを始めたのは4月
今回を整理するうえで重要なのが、「大阪湾初」と「大阪ガス初」を分けることです。
大阪ガスは2026年4月21日、JFEスチール西日本製鉄所福山地区で、LNG燃料の鉄鋼原料船に対して初めてShip to Ship方式によるLNG供給を実施しました。
これによって大阪ガスは、
Truck to Ship
Shore to Ship
Ship to Ship
という主要3方式すべてのLNGバンカリングに対応できるようになりました。
そして9月4日、神戸港で大阪湾初となるShip to Ship方式での供給を実施。
つまり今回のニュースは「新方式を始めた」というより、4月に立ち上げたShip to Shipの供給網が大阪湾で実際に使われ始めたという位置付けです。
主役はLNGバンカリング船「SETO AZURE」
今回LNGを供給したのが、大阪湾LNGシッピングが所有するLNGバンカリング船「SETO AZURE」です。
船名は瀬戸内海を意味する「SETO」と、青い海を意味する「AZURE」を組み合わせたもの。
2026年3月に命名式が行われ、4月9日に竣工。その後、大阪湾・瀬戸内エリアを中心としたLNGバンカリング事業へ投入されています。
主な仕様は次の通りです。
| 項目 | SETO AZURE |
|---|---|
| 全長 | 86.29m |
| 全幅 | 17.60m |
| 総トン数 | 約4,350トン |
| LNGタンク方式 | IMO独立タンク TYPE C |
| LNGタンク容量 | 約3,610m³ |
| 推進方式 | 電気推進 |
| 主機燃料 | LNG/重油デュアルフューエル |
| 船主 | 大阪湾LNGシッピング |
| 造船所 | 下ノ江造船 |
自らもLNGを燃料として使えるデュアルフューエルエンジンを搭載しています。
Ship to Shipの強みは「燃料を積んだ船そのものが動ける」こと
Ship to Ship方式の特徴は、LNGバンカリング船そのものが移動して燃料を届けられることです。
Truck to Shipではタンクローリーを岸壁へ配置する必要があり、Shore to ShipではLNGターミナルなどの陸上設備が必要になります。
一方、Ship to Shipならバンカリング船がLNG燃料船へ接舷して供給するため、港の設備や船の大きさなどに応じて柔軟に対応できます。
大阪ガスの場合、SETO AZUREへのLNG積み込みを泉北製造所と姫路製造所の2拠点で行えます。
大阪湾と瀬戸内海の両側に供給拠点を持ち、そこからバンカリング船を運用できることは、燃料供給の安定性という面でも重要です。
なぜ神戸港での実施が重要なのか
神戸港では、港湾の脱炭素化を進める「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成が進められています。
港湾設備や物流車両だけでなく、港を利用する船舶の燃料転換もその対象です。
神戸港のCNP形成計画でも、LNGバンカリングや将来の水素・アンモニアなど、次世代船舶燃料への対応が検討されています。
今回、大阪湾で初めて実際のLNG燃料自動車運搬船へShip to Ship方式による燃料供給が行われたことは、「LNGを供給できる港」という構想が実際の商用運用へ進んだ一例として見ることができます。
今回の供給は、シンガポールの船舶燃料取引会社Integr8 Fuelsを介して、海外船会社が運航するLNG燃料自動車運搬船に対して行われました。
国際航路の船舶へ燃料を供給できる体制が整えば、港そのものの競争力にも関わってきます。
LNGはどこまで環境負荷を減らせる?
LNGは従来の船舶用重油と比較して、燃焼時の環境負荷を低減できる燃料です。
DNVはLNG船舶燃料について、条件によって温室効果ガス排出量を最大約23%削減できるほか、NOxを最大約80%削減し、SOxや粒子状物質(PM)をほぼ排除できるとしています。
特にSOxやPMの削減は、港湾周辺の大気環境という面でもメリットがあります。
ただし、LNGを使えば「脱炭素完了」というわけではありません。
LNGの課題「メタンスリップ」
LNGの主成分であるメタンは、強い温室効果を持つガスです。
LNGエンジンでは、燃料として投入されたメタンの一部が燃焼せず、そのまま排気へ出る「メタンスリップ」が発生する場合があります。
DNVも、実際の温室効果ガス削減量は使用するエンジン方式によって異なり、特に低圧式と高圧式、2ストロークと4ストロークなどでメタン排出量に差が出るとしています。
そのためLNGは、重油からの燃料転換による環境負荷低減には有効でも、ゼロエミッション燃料ではありません。
「最終的な脱炭素燃料」というより、現在の船舶燃料から次世代燃料へ移行する過程で重要な役割を担う燃料と見る方が実態に近そうです。
将来はe-メタンへ置き換える構想
大阪ガスがLNGバンカリングと合わせて強調しているのが、将来的なe-メタンへの転換です。
e-メタンは、水素とCO2から製造する合成メタンです。
大阪ガスは、現在船舶へ供給しているLNGを将来的にe-メタンへ置き換えることで、船舶燃料のさらなる低炭素化・脱炭素化を進める方針を示しています。
重要なのは、LNGとe-メタンの主成分がともにメタンであることです。
現在整備しているLNG供給網を将来の低炭素・脱炭素燃料へつなげやすいことが、大阪ガスがLNGバンカリングへ取り組む理由の一つと考えられます。
世界ではLNGバンカリング船不足も課題に
LNG燃料船の増加に対して、燃料を供給する側のインフラ整備が追いつくかも課題になっています。
DNVは2026年9月、世界のLNGバンカリング船について、2030年までに165~208隻程度が必要になる可能性があるとの見通しを示しました。
LNG燃料船を増やしても、寄港する港で燃料を受けられなければ実際の運航には使えません。
船のエンジンだけでなく、「どこで、どのように燃料を供給するか」というインフラ側の整備も、船舶燃料転換を左右するポイントになります。
まとめ SETO AZUREが担うのは「次世代燃料への橋渡し」
大阪ガスが神戸港で実施した、大阪湾初となるShip to Ship方式のLNGバンカリング。
2026年4月に福山でShip to Ship方式を開始し、9月には大阪湾でも実際の商用船への供給が始まりました。
大阪ガスはこれで、Truck to Ship、Shore to Ship、Ship to Shipの主要3方式を使い分けながら、大阪湾から瀬戸内海にかけてLNG燃料を供給できる体制を展開しています。
LNGはゼロエミッション燃料ではなく、メタンスリップなどの課題も残ります。
しかし、船舶燃料を重油から低炭素化しながら、将来的にはe-メタンなどへ移行するためのインフラとして見ると、今回の取り組みの意味は大きく変わってきます。
海運の脱炭素化では、「どんな燃料を使うか」だけではなく「その燃料をどこで、どうやって船へ届けるか」も重要です。
神戸港で始まったSETO AZUREによるLNGバンカリングは、その燃料供給インフラが実際に動き始めた事例と言えそうです。
参考・出典
大阪ガス「大阪湾で初となるShip to Ship方式によるLNG燃料供給を自動車運搬船に対して実施」
https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2026/1825384_60968.html
大阪ガス「Ship to Ship方式による船舶向けLNG燃料供給(LNGバンカリング)を開始」
https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2026/1801025_60967.html
大阪ガス「当社初となるLNGバンカリング船の命名式を実施」
https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2026/1798529_60968.html
神戸市「神戸港カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/59946/20230214_kouwan5.pdf
DNV「LNG as marine fuel – Environmental performance」
https://www.dnv.com/maritime/insights/topics/lng-as-marine-fuel/environmental-performance/
DNV「LNG bunker fleet may need to more than double by 2030 to keep pace with growing fuel demand」
https://www.dnv.com/news/2026/LNG-bunker-fleet-may-need-to-more-than-double-by-2030-to-keep-pace-with-growing-fuel-demand/


