川崎重工業は2026年9月2日、福島県郡山市の富久山クリーンセンターを中心とした炭素循環事業が、環境省の「令和8年度公共施設を主体とした地域での炭素循環事業モデル実証事業」に採択されたと発表しました。
今回目指すのは、ごみ焼却施設から排出されるCO₂を単に回収するだけではありません。
回収したCO₂を地域内で運び、合成メタンの原料として利用し、製造した合成メタンを再び地域で使う。
川崎重工が「郡山モデル」と呼ぶ、地域内で炭素を循環させるCCUサプライチェーンの構築です。
事業実施期間は2026年度から2029年度までを予定しています。
富久山クリーンセンターのCO₂を地域資源へ
舞台となるのは、福島県郡山市の富久山クリーンセンターです。
川崎重工は同施設にCO₂分離・回収設備「Kawasaki CO₂ Capture(KCC)」を設置しており、2026年5月から設備が稼働しています。
これまでの実証では、実際のごみ焼却排ガスからCO₂を分離・回収し、設備面や運用面の課題を確認してきました。
今回の環境省事業では、そこからさらに一歩進みます。
ごみ焼却施設
↓
排ガスからCO₂を回収
↓
CO₂を運搬
↓
合成メタンを製造
↓
地域で利用
という一連の流れを構築します。
つまり、「CO₂を回収できるか」を確認する段階から、「回収したCO₂を地域でどう使うか」を検証する段階へ進むことになります。
「郡山モデル」とは?
川崎重工が掲げる「郡山モデル」は、大きく3つの工程で構成されます。
1.CO₂を「はこぶ」
富久山クリーンセンターのごみ焼却排ガスからKCCでCO₂を分離・回収。
回収したCO₂を地域内の利用先へ運搬します。
2.合成メタンを「つくる」
回収したCO₂を原料として、合成メタンを製造します。
これまで大気へ排出されていたCO₂を、燃料をつくるための炭素資源として利用する考え方です。
3.地域で「つかう」
製造した合成メタンを地域内で利用し、CO₂を地域内で循環させるサプライチェーンの構築を目指します。
今回の実証には、
- 郡山市
- 川崎重工業
- エア・ウォーター東日本
- 東部ガス
- 日東紡績
の5者が参加します。
この5者は2025年8月に「資源循環及び脱炭素化の推進に関する連携協定」を締結しており、今回の環境省事業は、その取り組みを具体化するものです。
Kawasaki CO₂ Capture(KCC)とは?
今回の中心技術となるのが、川崎重工のCO₂分離回収技術「Kawasaki CO₂ Capture(KCC)」です。
KCCはアミンを利用した固体吸収材によって、排ガスに含まれるCO₂を分離・回収する技術です。
一般的な液体吸収法と比べ、低温の排熱を利用できることから、CO₂回収に必要なエネルギーを低減できる可能性があります。
CO₂を回収するために大量のエネルギーを使ってしまえば、脱炭素効果や経済性が低下します。
そのため、実際のプラントへCCUを普及させるには、
「どれだけ効率よくCO₂を回収できるか」
という点が非常に重要になります。
2023年から続く富久山クリーンセンターでの実証
今回の発表だけを見ると新しいプロジェクトのように見えますが、川崎重工と郡山市の取り組みは数年前から段階的に進められてきました。
2023年
川崎重工と郡山市が、ごみ焼却施設の排ガスから固体吸収法でCO₂を分離・回収する共同実証に合意。
ごみ焼却排ガスへの固体吸収法の適用は国内初の取り組みとしてスタートしました。
2025年
郡山市、川崎重工、エア・ウォーター東日本、東部ガス、日東紡績の5者が、資源循環と脱炭素化を進めるための連携協定を締結。
CO₂を回収するだけでなく、燃料化して地域で循環利用する構想へ発展しました。
2026年5月
富久山クリーンセンターにKCC実証設備が完成し、実際のごみ焼却排ガスを使ったCO₂分離・回収試験を開始。
2026年9月
「郡山モデル」が環境省の実証事業に採択。
CO₂を「回収する」実証から、「運ぶ・燃料にする・地域で使う」まで含めたCCUサプライチェーン構築へ進みます。
段階を追って見ると、ごみ焼却施設へのCO₂回収設備導入だけが目的ではないことが分かります。
ごみ焼却施設とCCUは相性がいい?
ごみ焼却施設では、ごみを安全かつ安定的に処理する過程で燃焼排ガスが発生します。
近年は廃熱を利用した発電によって、ごみ焼却施設を「エネルギー供給拠点」として活用する施設も一般的になりました。
そこへCO₂分離・回収技術が加わると、さらに役割が広がります。
これまで
ごみ
↓
焼却
↓
廃熱
↓
発電・熱利用
だったものが、
ごみ
↓
焼却
↓
CO₂回収
↓
燃料・化学原料などへの利用
という新たな資源循環につながる可能性があります。
もちろん、設備コストやエネルギー消費、回収したCO₂の運搬方法、利用先の確保など、社会実装には多くの課題があります。
今回の実証では、CO₂分離回収設備そのものだけではなく、こうしたサプライチェーン全体を検証する点が重要です。
合成メタンで既存インフラを活用できる可能性
今回、回収したCO₂の利用先として想定されているのが「合成メタン」です。
合成メタンは、CO₂を原料として人工的に製造するメタンです。
都市ガスの主成分もメタンであるため、将来的には既存のガスインフラやガス利用設備を活用しながら脱炭素化を進められる可能性があります。
再生可能エネルギー由来の水素などと回収CO₂を組み合わせて製造する合成メタンは「e-methane(e-メタン)」とも呼ばれ、都市ガス分野を中心に社会実装へ向けた取り組みが進められています。
今回の郡山モデルでは、ごみ焼却施設から回収したCO₂を地域内で利用することで、「CO₂の地産地消」を目指します。
ごみ焼却施設が「炭素資源の供給拠点」になる?
FORGRAFT LABとして今回特に注目したいのは、ごみ焼却施設の役割の変化です。
従来、ごみ焼却施設の中心的な役割は、
「ごみを安全・安定的に処理する」
ことでした。
そこへ高効率発電が加わり、
「地域へ電気や熱を供給する施設」
という役割も大きくなっています。
さらにCCUが実用化されれば、
「CO₂を回収し、燃料や化学原料として地域へ供給する施設」
という新しい役割が加わる可能性があります。
CO₂を単なる排出物として扱うのではなく、炭素を含む資源として回収する。
ごみ処理施設そのものが地域の資源循環拠点へ変わっていく動きとして、非常に興味深い事例です。
2029年度までの実証に注目
今回の事業は2026年度から2029年度まで実施される予定です。
現時点では実証段階であり、全国のごみ焼却施設へすぐに導入される技術というわけではありません。
今後注目したいのは、
- KCCによるCO₂回収性能
- 設備のエネルギー消費
- CO₂の回収・運搬コスト
- 合成メタンの製造効率
- 地域での利用方法
- CCUサプライチェーン全体の経済性
といった点です。
これらを実際の地域で検証し、「郡山モデル」が成立すれば、他の自治体やごみ処理施設へ展開できる可能性もあります。
ごみを焼却して終わりではなく、発生したCO₂まで資源として地域内で循環させる。
ごみ処理施設と脱炭素技術がどのように融合していくのか、FORGRAFT LABでも今後の動きを追っていきたいと思います。


