JFEエンジニアリングは2026年9月3日、金属有機構造体「MOF(Metal-Organic Frameworks)」を使い、ごみ焼却施設の実際の排ガスからCO₂を分離・回収する実証試験に着手すると発表しました。
実証場所は、東京都三鷹市と調布市で構成するふじみ衛生組合の清掃工場「クリーンプラザふじみ」。
JFEエンジニアリングによると、ごみ焼却処理施設の実排ガスからMOFを使ってCO₂を回収する試みは国内初です。
※JFEエンジニアリング調べ、2026年6月時点。
今回の技術で注目したいのは、「MOFという新しい材料を使う」ことだけではありません。
水分を含むCO₂濃度約10%の清掃工場排ガスを事前に除湿せず、そのままMOFへ通す。
さらに、吸着したCO₂を取り出す際にも加熱せず、真空ポンプによる減圧で脱着させる。
従来のCO₂回収プロセスで必要になる設備やエネルギーを、どこまで減らせるのか。
JFEエンジニアリングが2021年度から京都大学の北川進特別教授と研究を続けてきた技術が、模擬排ガスから実際の清掃工場排ガスを使う段階へ進みます。
今回の実証を簡単に整理
今回発表された内容を先に整理すると、次のとおりです。
- 実証場所:クリーンプラザふじみ
- 対象:水分を含む清掃工場の実排ガス
- 排ガス中のCO₂濃度:約10%
- 分離材料:MOF(金属有機構造体)
- 排ガスの事前除湿:不要
- CO₂脱着時の加熱:不要
- 脱着方法:真空ポンプによる減圧
- CO₂回収規模:1日数kg
- 実証期間:2026年度末までを予定
- 将来の対象:清掃工場など中小規模のCO₂排出源
今回の実証で性能を確認し、低消費エネルギーで効率的なCO₂分離・回収プロセスの確立を目指します。
MOFとは?「分子を入れる小さな空間」を設計できる材料
MOFは「Metal-Organic Frameworks」の略で、日本語では「金属有機構造体」と呼ばれます。
金属イオンと有機分子を組み合わせて作る多孔質材料で、内部に非常に小さな空間を持つことが特徴です。
組み合わせる材料や構造を変えることで、特定の分子を取り込んだり、分離・貯蔵したりする機能を設計できます。
CO₂回収のほか、水の回収、ガス貯蔵、触媒など、さまざまな用途への応用が研究されています。
そして今回JFEエンジニアリングと共同研究を行っている京都大学の北川進特別教授は、リチャード・ロブソン氏、オマー・M・ヤギ氏とともに、「金属有機構造体(MOF)の開発」で2025年ノーベル化学賞を受賞しました。
ただし、
「今回JFEが使用しているMOFそのものがノーベル賞を受賞した」
という意味ではありません。
MOFという材料分野の発展に大きく貢献した北川教授とJFEエンジニアリングが、清掃工場のCO₂回収という実用分野で共同研究を進めている、という関係です。
今回のポイントは「CO₂と水を一緒に扱える」こと
実際の清掃工場排ガスを扱ううえで重要なのが、水分です。
JFEエンジニアリングと北川教授が共同研究で見いだした今回のMOFには、CO₂と水を同時に吸着・脱着できる特性があります。
ここは「MOFは水に強い」と一括りに考えない方がよさそうです。
MOFは非常に多くの種類があり、材料によって水に対する安定性や吸着特性は異なります。
今回重要なのは、JFEと北川教授が見いだしたMOFが、水分を含む清掃工場排ガスを前提としたCO₂回収プロセスに利用できる特性を持っていることです。
実証では、排ガスを事前に除湿することなくMOFを充填した吸着塔へ送り、CO₂と水を吸着させます。
その後、真空ポンプで吸着塔を減圧し、CO₂と水を脱着します。
つまり、
「水分を取り除いてからCO₂を回収する」
のではなく、
「水分を含んだ実排ガスのままCO₂回収工程へ入れる」
ことを狙ったプロセスです。
アミン・ゼオライト・MOFは何が違う?
JFEエンジニアリングは今回、従来方式との違いを次のように整理しています。
| 方式 | 主な材料 | 排ガス前処理 | 脱着時の加熱 |
|---|---|---|---|
| 化学吸収法 | アミン溶液 | 不要 | 必要 |
| 吸着法 | ゼオライト | 除湿が必要 | 不要 |
| 今回の方式 | MOF | 不要 | 不要 |
アミンを使った化学吸収法では、CO₂を吸収した液からCO₂を分離し、吸収液を再生する工程で熱を使います。
一方、JFEが今回比較対象としているゼオライト吸着方式では、脱着時の加熱は不要ですが、排ガスの除湿が必要です。
MOFを使った今回の方式では、
- 除湿設備を不要にする
- CO₂脱着のための加熱も不要にする
という両方を狙っています。
これが実現すれば、設備構成をシンプルにしながらCO₂回収に必要なエネルギーを下げられる可能性があります。
ただし「加熱不要=エネルギー不要」ではない
ここは今回の発表を見るうえで重要です。
MOF方式では脱着時に加熱しませんが、真空ポンプで減圧します。
当然、真空ポンプを動かすには電力が必要です。
また実際のCO₂回収設備では、排ガスを移送する機器や各種補機なども必要になります。
そのため、現段階で、
「MOF方式ならアミン吸収法より必ず省エネになる」
と断定することはできません。
JFEエンジニアリング自身も「省エネルギー化・設備の簡素化が期待できる」としています。
本当に重要なのは、実排ガスで運転した際の総合的なエネルギー消費です。
将来的には「CO₂を1トン回収するためにどれだけエネルギーが必要なのか」という数字まで示されれば、従来方式との違いがより明確になります。
実証場所は288t/日の実際の清掃工場
クリーンプラザふじみは、研究用に作られた小さな焼却炉ではありません。
設備能力は、
- ごみ焼却炉:144t/日×2炉
- 合計処理能力:288t/日
- 炉形式:全連続燃焼式ストーカ炉
- 蒸気タービン発電機:9,700kW
という実際に稼働している清掃工場です。
実際の廃棄物を燃焼した排ガスを使ってMOFの性能を確認できることには、大きな意味があります。
一方で、今回のMOF実証で回収するCO₂は1日数kgです。
288t/日の清掃工場全体の排ガスをMOFで処理するわけではありません。
今回の段階は、実施設から得られる排ガスを使い、MOFと分離回収プロセスの性能を確認する小規模な実証と考えるのが適切です。
ここから商用設備へスケールアップできるかが、次の大きな壁になります。
JFEは2021年から同じ施設でアミン法も実証
今回のニュースをさらに興味深くしているのが、クリーンプラザふじみでの過去の取り組みです。
JFEエンジニアリングは2021年、同施設でアミン吸収法を使ったCO₂回収実証を開始しました。
2022年には、
- CO₂回収率:90%以上
- 回収したCO₂の純度:99.5%以上
を確認したと発表しています。
さらに三菱ガス化学と共同で、ここで回収したCO₂からメタノールを製造することにも国内で初めて成功しました。
つまりJFEはすでに、
「清掃工場の排ガスからCO₂を回収できるか」
という段階から、
「回収したCO₂をどう利用するか」
という段階まで実証しています。
今回のMOFは、そのさらに手前にある「CO₂をどう効率よく分離・回収するか」を改良する技術と言えます。
実はJFEは「膜分離法」も進めている
そして今回調べ直して、もう一つ注目したいのがこの点です。
JFEエンジニアリングは住友化学と共同で、川崎市の浮島処理センターにおいて、膜分離法を使ったごみ焼却排ガスからのCO₂回収実証も進めています。
この設備は2026年3月から稼働を開始しています。
膜分離法は、特殊な膜を通過しやすい分子と通過しにくい分子の違いを利用してCO₂を分離する方式です。
住友化学とJFEは、ごみ焼却排ガスのような10%以下の低濃度CO₂から、低エネルギーでCO₂を回収する技術の開発を進めています。
整理すると、JFEは清掃工場向けCO₂回収について、
アミン吸収法
実際にCO₂を回収し、回収率90%以上・純度99.5%以上を確認
膜分離法
低濃度CO₂を対象に、小型化・低コスト化・低エネルギー化を狙う
MOF吸着法
除湿不要・加熱不要のプロセスで省エネルギー化と設備簡素化を狙う
という複数の方式を実証していることになります。
これはかなり重要です。
現段階でJFEが「MOF一本に決めた」という話ではありません。
排ガス条件、施設規模、必要なCO₂純度、設備スペース、エネルギー、コストなどによって、最適なCO₂回収方式は変わる可能性があります。
複数の技術を実排ガスで試しながら、清掃工場など中小規模排出源に適した方式を探っていると見る方が実態に近そうです。
なぜ清掃工場のCO₂回収が重要なのか
CO₂回収というと、大型火力発電所や製鉄所など巨大な排出源をイメージしがちです。
しかし清掃工場も、ごみを燃焼する以上CO₂を排出します。
さらに清掃工場は全国各地に分散しており、一施設ごとの排出規模も大型発電所などとは異なります。
そのためJFEは、今回のMOF技術について、清掃工場をはじめとする「中小規模のCO₂排出源」への適用を検討するとしています。
巨大設備向けのCO₂回収技術をそのまま小さくするだけでは、設備費やエネルギー負担が割高になる可能性があります。
だからこそ、
- 装置を小さくできるか
- 設備点数を減らせるか
- 回収時のエネルギーを抑えられるか
- 既存施設へ追加しやすいか
といった点が重要になります。
MOFの「除湿不要・加熱不要」が実設備でも成立すれば、この部分でメリットが出てくる可能性があります。
実用化までに確認したい5つのポイント
今回の発表だけでは、まだ分からないことも多くあります。
1.実排ガスでのCO₂回収率
アミン吸収法では90%以上という実績が公表されていますが、今回のMOFについては回収率がまだ示されていません。
2.回収CO₂の純度
回収したCO₂をメタノールなどの原料として利用する場合、純度も重要になります。
3.エネルギー消費
加熱は不要でも真空ポンプを使用します。
設備全体でどの程度の省エネルギー効果が得られるかが重要です。
4.MOFの耐久性
実排ガスにはCO₂と水だけが含まれているわけではありません。
長期間にわたって吸着・脱着を繰り返した際に性能を維持できるかは、実用化に直結します。
5.大型化したときのコスト
今回の回収量は1日数kg。
実際の清掃工場へ本格導入するには、処理量を大幅に拡大する必要があります。
必要なMOF量、吸着塔の大きさ、真空設備、材料交換費などを含めて経済性が成立するかが重要になります。
FORGRAFT LABとして注目したいのは「どの方式が残るのか」
今回のMOF実証だけを見ると、「新素材を使った新しいCO₂回収技術」というニュースです。
しかしJFEエンジニアリングの過去数年間の動きを並べると、少し違う姿が見えてきます。
2021年にはアミン吸収法。
2022年には回収CO₂からメタノールを製造。
2026年には膜分離法とMOF吸着法。
JFEは清掃工場からCO₂を回収するという目的に対して、複数の方法を実排ガスで試しています。
最終的に一つの方式へ集約されるのか。
施設規模や用途によって、アミン・膜・MOFを使い分けるのか。
あるいは複数方式を組み合わせるのか。
ここは今後かなり面白いところです。
まとめ
JFEエンジニアリングが今回実証するMOFによるCO₂分離・回収技術の最大のポイントは、
「水分を含む約10%CO₂の清掃工場排ガスを除湿せず処理し、CO₂を取り出す際にも加熱しない」
というプロセスです。
除湿設備や加熱再生設備を省略できれば、省エネルギー化だけでなく設備の簡素化にもつながる可能性があります。
一方で、今回のCO₂回収規模はまだ1日数kg。
実用化を評価するには、回収率、CO₂純度、消費エネルギー、MOFの耐久性、そして大型化した際のコストを見る必要があります。
そしてJFEは、アミン吸収法だけでなく膜分離法も実排ガスで実証しています。
今回のMOF実証は、「MOFが従来方式を置き換える」と結論づける段階ではありません。
むしろ、
清掃工場のCO₂回収を本当に社会実装するには、どの方法が最適なのか。
その答えを探すための重要な一歩と見るのがよさそうです。
2026年度末までの実証で、どこまで具体的な性能データが示されるのか。
FORGRAFT LABでも引き続き注目していきます。


