電気が余るときに岩石を温め、蒸気が必要になったときに、その熱を取り出す。
東芝、中部電力、新東海製紙は2026年10月14日、静岡県島田市にある新東海製紙・島田工場で、熱容量約10MWh級の岩石蓄熱設備が本格的な実証運転を開始したと発表した。
紙の製造には、乾燥工程などで大量の蒸気を使う。今回の設備は、工場内の電力と熱の需給を見ながら電気ヒーター、蓄熱槽、蒸気発生器を動かし、必要なタイミングで蒸気を供給するものだ。
岩石蓄熱とは? 電気を「熱」に変えて貯める
今回の設備では、島田工場内の電力需給に応じて電気ヒーターを稼働させ、岩石が詰まった蓄熱槽に熱を蓄える。蒸気が必要なときは蓄えた熱を取り出し、紙の乾燥工程へ供給する。
流れを簡単にすると、次のようになる。
工場内の電力 → 電気ヒーター → 岩石に蓄熱 → 蒸気発生器 → 紙の乾燥工程
ここでいう「約10MWh」は、設備に蓄えられる熱エネルギーの容量を示す。約10MWhの電気を蓄電池のように取り出せるという意味ではない。今回の工場で中心となる使い道は、蓄えた熱を蒸気として利用することだ。
なぜ製紙工場で実証するのか
工場では、電力を使えるタイミングと、製造工程で蒸気を必要とするタイミングが一致するとは限らない。
島田工場にはバイオマス発電設備があり、今回の実証では、その電力を工場内の熱需要に合わせて有効活用する。電気をすぐに使い切るのではなく、いったん岩石へ熱として蓄え、乾燥工程の蒸気需要へ振り向ける考え方だ。
岩石蓄熱は、電気と熱を別々に管理する工場で、両者の使う時間を調整する手段になり得る。
注目点は蓄熱槽だけでなく、運転を決める仕組み
設備には、蓄熱槽のほかに電気ヒーター、蒸気発生器、送風機などがある。これらをいつ、どの程度動かすかを決めるのがエネルギーマネジメント技術だ。
東芝によると、蓄熱状態と工場内の熱需要から蓄熱・放熱のタイミングを算出し、各機器を自動制御する。さらに、蓄熱槽内の温度分布を速く予測するモデルも使い、設備の運用性やCO₂排出量の削減効果を検証する。
岩石を温めても、必要なときに必要な温度の熱を取り出せなければ、工場の蒸気設備としては使いにくい。槽内の温度変化を予測し、蒸気需要に合わせて運転する部分が、この実証の重要なポイントだ。
中部電力は700℃級の蓄熱槽の構造健全性も検証する。高温の設備を長く運転するには、蓄熱材だけでなく、槽の構造や運転の安定性も確認する必要がある。
「国内初」はどの範囲か
3社は今回の設備について、エネルギーマネジメント技術を組み合わせた熱容量約10MWh級の岩石蓄熱設備として国内初と説明している。これは3社調べによる位置付けであり、「岩石を使った蓄熱そのものが国内初」という意味ではない。
また、発表時点では本格的な実証運転の段階だ。年間のCO₂削減量、実運転での効率、導入費用などが確定した商用設備として評価する段階ではない。
現場目線で、これから確認したいこと
岩石蓄熱が工場で広く使われるかを判断するには、熱を貯められる容量だけでなく、実際の運転結果が重要になる。
- 電力を投入してから蒸気として利用するまでの効率
- 蒸気需要の変動に対する追従性
- 蓄熱槽、ヒーター、送風機の長期運転と保守
- 既設のボイラーや発電設備との運転分担
- 実測した運転費用とCO₂排出量
今回の発表では、これらの成果値はまだ示されていない。実証が進み、既設設備を含めた運転実績が公表されれば、導入効果をより具体的に見られるはずだ。
まとめ
島田工場で始まったのは、電気を岩石に熱として蓄え、必要なときに紙の乾燥工程へ蒸気を供給する実証だ。
約10MWh級という容量に加え、工場の電力需給と蒸気需要に合わせて、蓄熱・放熱を自動制御する点に特徴がある。今後は、実際の運転でどれだけ安定して熱を供給でき、費用やCO₂排出量を抑えられるかに注目したい。
関連記事:クリーンセンター志太のごみ発電電力を地域で使う取り組み


